私、立候補します!
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(今日は使用人の皆さんが特に忙しそう……)
普段から仕事をこなす使用人達はエレナの目に忙しそうに映っているが、今日は特に忙しそうな様子で廊下を行き来しているのを胸の内で不思議に思う。
今日も執務室に呼ばれ、通り慣れた廊下を歩いていると丁度前方からエドワードが歩いてきた。
彼は何も持たず、歩く速さがいつも通りに見えたエレナは使用人の様子の理由を聞いてみることに。
「エドワードさん、おはようございます」
「おはようございます、エレナさん。今日も早い起床ですね」
チェインに見習ってほしいものです、と眉をひそめる彼に曖昧に笑って反応しながらエレナは再度口を開く。
「使用人の皆さんとても忙しそうですけれど、何か大きな行事や大切な予定でもあるのでしょうか?」
エドワードはまわりの使用人達の様子を見てああ、と口に出した。
「エレナさんにはまだ説明されていませんでしたか。近日中に北方の国境警備のために、辺境伯爵閣下のもとをラディアント様がご訪問されるんです。そのための準備で慌ただしいようですね」
「そうですか……」
「年に数回ありますが、その時の国境付近の情勢によっては回数を増やすこともあります」
(北方というとサセット国から見てライズ国とは反対側に隣り合っている国だよね)
エレナはサセット国に関して覚えている知識を引っ張り出すものの、北方に位置する国については閉ざされた雪の民の国としか知らない。
雪の民という言葉に神聖な印象を持っていたが、エドワードの話を聞いたことにより物語のような儚い存在ではないと引き締まる思いだ。
エドワードは真顔になったエレナを見つめ、ふっと口元を和らげて彼女の頭をぽんぽんと軽く叩くようになでる。
普段のエドワードには見られない行動にエレナがぽかんとして見上げると、彼は頬を微かに染めて手を引っこめた。
「すみません。何だかエレナさんがまるで妹のように見えてしまってつい……」
兄弟はいないのですが、と目をそらしたエドワードは窓の外に目を向ける。
晴れた空の下を鳥達が飛んでいく様子を見た後、遥か遠くを見るように目を細めた。