私、立候補します!
13 北方へ
城の敷地周辺に緑が増え、敷地内に設けられている畑の作物の芽が出たりと日々の経過を感じる五月の初旬。
ラディアント一行のカルバン辺境伯爵領への訪問がとり決められた。
執務机の前に座り、ラディアントはカルバンから送られてきた報告書に目を通し、共に向かう人員の候補を頭の中で決めていく。
(いつも通り魔術が得意なチェインは万が一のために必要だし、エドワードには城の留守を頼みたい。後は何度か行っている者と、新人を数人――)
大体の人員を決めたラディアントはそこで思考を止める。
いつもならこれで本決まりにし、チェインやエドワードに共に向かう者への伝達を頼んで明日中に出発する。
しかし、今回は部下ではないもう一人の存在を頭に浮かべ、どうするかを決めかねていた。
(彼女は魔術が扱えない。ロッドを扱う腕は相当なようだけれど――)
城にいてもらったほうが安全だ。
しかし、ラディアントは自分の目の届かない場所にエレナを置くことを想像するとどうにも胸が騒ぐ。
北方の国境の向こうにあるネーヴェ国との接触は何代も前の国王の時代からなく、終戦以降の有事はない。
しかし、ネーヴェ国の民は謎に包まれている部分も多く、今後も危険がないとは言い切れなかった。
――静かな空間で眉間に皺を寄せて悩む上司を見つめる二対の目。
その内の一対である青年は窓から差しこむ朝日に目を瞬かせ、口元を手で覆ってあくびを噛み殺した。
年下の従兄弟に叩き起こされて連れられるままに来たが、この時期に行われることは分かりきっている。
向かいのソファーに自分と同じように座る従兄弟の睨みに構わず、今回は誰が共に行くのだろうと考えたところでエレナのことに思い当たる。
魔術に興味を示す彼女は今やここでの暮らしに馴染んでいるために失念していた。
使用人であれば城に残り、兵士などであれば共に国境警備に行くか城を守るかの二択。
チェインは眠気を振り払い、エドワードに笑顔を向けて右手を左手首に巻きつけるように触れてジェスチャーする。
彼の動作に一瞬目を見開いたエドワードは首を横に振って否定した。