私、立候補します!
「エドワードの気遣いは嬉しいけれど、今回はチェインの提案に乗ってみることにしたんだ」
初めはエドワードと同じようにチェインの提案に渋っていたが、チェインの話を聞く内にいつのまにかエレナを同行させることに気持ちが傾いてしまっていた。
決定的になったのはエレナを城に残せばエドワードといることになりますよ、とやけに真剣な顔をしてチェインが放った言葉だった。
それを聞いた瞬間、先月の終わりに侍女から聞いた話が思い出される。
執務の合間に眠気覚ましにコーヒーを頼み、用意して執務室にきた侍女の言葉はラディアントにとって少なからず衝撃的だった。
(エドワードが年頃の女性の頭をなでるなんて信じられない)
チェインならばあり得る話であるが、真面目で女性に一線を置きがちのエドワードにはかなりまれなこと。
侍女の報告とチェインの言葉がラディアントに焦りをもたらした。
「エレナさん。日程は余裕を持って組んでいるから帰りに街を色々案内してあげるからね」
チェインはエドワードの視線に気づかぬふりをして彼の隣に立っていたエレナに笑いかける。
エレナは出発前のラディアント一行をぐるりと見て気後れしてしまう。
皆が纏う装いは見慣れているが、腰に携えている剣がただの旅行ではないことを主張しているような気がしたエレナは眉を下げてチェインとラディアントを交互に見上げた。
「本当にいいのでしょうか……?」
エレナは自分がついて行くことで誰かの足枷になることは嫌だったので最初は城で待っていると断った。
しかし、笑顔のチェインに大丈夫とおされ、ラディアントもきっと喜ぶと言われてエレナは首を縦に振ったのだが。
いざ目前となると不安が胸を占めてしまい、胸の前で手をぎゅっと握った。
「大丈夫」
「ラディアント様……」
不安げな表情を浮かべるエレナへとラディアントが距離を縮め、握られているこぶしをそっと包んで目を細める。
エレナと目を合わせ、それから後ろを軽く振り返って共に北方へと向かう部下達を見やった。
「私やチェインだけではなく頼もしい仲間も同行するから安心してほしい」
「そうそう。鍛錬が趣味の猛者ばっかりだから、ね?」