私、立候補します!
チェインが振り返って言葉をかければ、皆がうんうんと頷く。
「一緒に行きましょうや」
「もしよければ帰りにおすすめの店を教えますよ」
笑顔でかわるがわる声をかけてくれる兵士達にエレナも笑みを浮かべ、よろしくお願いしますと返し。
「それじゃあ出発しようか」
「――はい……!」
差し伸べられたラディアントの手にエレナはそっと自分のそれを重ねた。
***
一行は四人乗り馬車三台で城を出発。
その中の一台にエレナはラディアント、チェインと共に三人で乗っていた。
ラディアントが治める領地は国の中枢に近く城下町は人々で賑わっており、その中の道を馬車が駆け抜けていく。
(うわぁー、人がいっぱいだしお店もたくさんある……!)
エレナは馬車の窓から流れ見る店や人の光景に目をきらきらと輝かせた。
そんな彼女の様子を横で見ながらラディアントは胸をなで下ろした。
公務ではないので馬車に装飾を施して王族関係者と分からないようにしているため、彼は混乱を避けるために窓の外をうかがえない。
しかし、賑わいやエレナの様子から活気を感じられ、ラディアントは表情をゆるませて座席に背を預けた。
最近は執務に追われてお忍びでの視察は叶わずにいたが、目立った報告もなく、領地を預かる者としてトラブルがないことにとても感謝している。
国は王族や貴族だけでは成り立たない。大勢の国民の支えがあってこそあるのだと、ラディアントは改めて感じた。
その後店の並びを抜けて住宅街もなくなった見晴らしのいい場所をしばらく走っていると、馬車はゆるやかに速度を落としてやがて停車した。
もう着いたのかときょろきょろと窓の外を見るエレナの姿に、後ろの座席に座っていたチェインが前の座席に身を乗り出してまだだよ、と笑いを含んで否定する。
「エレナさんも知ってるはずだよ? この国での便利な移動方法をね」
「あっ、移動術……!」
ひらめいたとばかりに答えれば、チェインとラディアントが正解、と声を揃えた。
エレナがサセット国に来た時も移動術を使ったが、本人は眠っていたし盗賊に襲われて気を失ってもいた。そのため、はっきりと意識がある中での体験は初めてになる。
そう思うとエレナの胸はどきどきと高鳴り期待で膨らむ。