私、立候補します!
(まずは国境にかけている結界術から見せようか――)
今後の目標を決めた王太子は、ちらつき始めた雪に目を細めて景色を睨む。
ネーヴェ国と隣り合っているからなのか単に北に位置するためなのか。カルバンが治める地は夏の季節は涼しくて過ごしやすいが、それ以外の季節は寒くてよく雪が降る。そのため、この地の季節は夏と冬のみと言っても過言ではない。
身動きがとれるよう雪が積もらないように大地に熱を保つ魔術をかけているが、ここの領地だけは力で天候を変えることが出来ずにいた。
ラディアントだけではなく今まで数え切れないほどの人が試してみたが、誰も上手くいった例がない。
ネーヴェの国民は国土に年中雪を降らせ、雪のみを糧にする非常に珍しい民族とされている。
それ以外の詳細はラディアントのような王族でも分からないが、彼は国境警備を担当するようになってからどうしても気をゆるめることは出来ずにいた。
人口に対して国土が狭いことを理由に隣にある広いサセット国を攻めてきたのが戦の始まりだったが、サセット国の魔術に手こずり退却。
しかし、当時の国王は殺生をよしとせずに追い返して結界を張った。
――それならば人口は増えるいっとに違いない。ラディアントはずっとそう考えてきた。
(ネーヴェ国と戦がある前はここにも季節の流れがあったと記録が残されている。それならネーヴェ国の民は今もなお機会を狙っているのかもしれない――……)
ネーヴェ国にはネーヴェ国の暮らしがあるように、サセット国にだってこの国なりの暮らしがある。
たくさんの国民の顔を思い浮かべたラディアントは何があっても守り抜くと胸の中でつぶやき、誓うようにこぶしを胸にあてて強く目を閉じた。
***
移動術の後しばらくひらけた道を走っていると遠くにそびえ立つ城が見えてくる。
ぐんぐん距離が近づけばエレナの目に立派な城が鮮明に見えて、思わずわぁ、と声がもれた。
(すごい……。大きいし広いし、ラディアント様のお城と変わらないくらいすごいなぁ……)
エレナが窓に張りつくようにして眺めていると城の近くに二つの人影が見え、馬車は徐々にスピードを落とし、二人の人物の近くに止まった。
先に降りたチェインにエスコートされるように手を引かれて馬車をゆっくりと降りると、人の姿がはっきりと目に映った。