私、立候補します!
エレナが馬車を降りたのを見届け、自らも降りたラディアントは立っていた内の一人に近づいて声をかける。
相手の男性は肩ほどの長さで綺麗に揃えられた薄紫の髪と金色の切れ長の目を持ち、着ている軍服は深緑色でチェインやエドワード達と同じ。
右目にかけられたモノクルが印象的でエレナはじっと見てしまう。
すると視線を感じたためか男性はエレナの方に視線を向け、うっすらと笑みを浮かべた。
「珍しいですね。ラディアント様が女性を同行されるなんて」
淡々とした口調で言い、目を細めた彼はラディアントに視線を戻して首を傾げる。
ラディアントはああ、と返してエレナに近くに来るようにと手招きをした。
「こちらニール·カルバンさん。ここ一帯の地を守る辺境伯爵閣下だよ。彼女はエレナ·ノーランドさん。隣のライズ国の方ですが、今は私の所に滞在をお願いしています」
「エレナ·ノーランドです。よろしくお願いします」
エレナは慌ててスカートの裾を持ち上げ、不慣れな貴族令嬢としての挨拶を向けた。
ぎこちなさを咎められるかとそわそわと視線を動かすも、ニールは特に言うこともなく笑みを深めていく。
「初めまして、お嬢さん。ワタクシはニール·カルバンと申します。辺境な場所ですがゆっくりしていって下さいね」
ニールはそこで言葉を切ると自分の隣に立っている少年に目を向けた。
ニールと同じ色の耳にかかるほどの長さの髪に、大きめな丸いニールと同色の目を持つ少年がじっとエレナを見ている。
「こちらは息子のアレクセイです。ワタクシに似ずやんちゃな性格ですが、どうぞよろしくお願いします」
「アレクセイ·カルバンです! よろしくお願いします!」
ぱっと大輪の花が咲いたような笑顔を浮かべたアレクセイがエレナに手を近づける。
まだ成長途中の手は成人男性よりもちろん小さいが、所々にある荒れや肉刺が彼も将来は軍人になるのだとエレナに示しているようで胸の奥がきゅっとしまった。
しかし、弟のジルも次期領主としてある程度の年齢から学び始めていることを思い出し、自分を納得させて笑顔を返す。
そして、よろしくお願いします、と小さくも大きな可能性を秘めているだろう手としっかりと握手を交わした。