私、立候補します!
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城に入って間もなく、エレナに城の中の案内をという話になった。
誰か城の者を呼ぼうとしたニールの言葉を遮り、アレクセイが元気よく手を上げて案内役をかって出る――。
「――それじゃあアレクセイ君はお父様とよく訓練をしているんだね」
大体の案内が終わり、現在は客間の一室のソファーに座って打ち解けたエレナとアレクセイは話に花を咲かせていた。
エレナが笑顔で返せばアレクセイもはじけるような笑顔で頷く。
ジルよりも少し年下と分かったアレクセイが領地にいる子供達と重なり、エレナは懐かしく感じてついつい口数が増える。
それに対してアレクセイは嫌な顔を一つせず、むしろエレナ以上に表情を輝かせて会話を繋いでいた。
「そうだよ! お父様はすごく強くてカッコいいんだ!」
頬を赤く染めて興奮気味に話す少年にうんうんと頷きながらエレナは胸が温かく感じる。
親を誇りに思って話す姿はどんな人でもエレナには輝いて見え、子供ならさらにきらきらとして見える。
エレナ自身も家族を思い浮かべればやっぱり大切で誇れる存在で。胸の温かさが増していく。
そうしているとアレクセイは急にエレナの手を見つめ、時間を置かずにぎゅっと握ってきた。
「アレクセイ君?」
どうしたの、と問いかけるエレナに構わずアレクセイは彼女の手を無言でぺたぺたと触り、満足したのかエレナを近い距離から見上げた。
「エレナお姉ちゃんは本当に魔力がないんだね」
「え……?」
「ボクね、まだ触らないと他の人の魔力が分からないんだけど、魔力のない人に会ったのは初めてなんだ」
「私は隣のライズ国の生まれだからかな。ライズ国の人はほとんど同じだと思うよ」
不思議だなぁ、と首を傾げるアレクセイに、エレナは改めて自分に魔力はないのだと実感する。
チェインやラディアントなどの依代式を発動出来ることで浮かれていたが、自分一人ではわずかな風を起こすことも出来ない。
エレナとサセット国の人の明確な違いに少し寂しい気持ちが生まれ、エレナはそれを笑みに隠す。
「アレクセイ君はどんな魔術が使えるの?」
自分にない物を人は求めることがある。
サセット国に来てエレナが専ら興味を惹くのは継続して魔術だった。