私、立候補します!
国民の暮らしや国の文化などにも興味はあるが、エレナにとって未だ一番に興味があるのは魔術。
アレクセイは一体どんな魔術を扱えるのだろうと胸をはずませて返答を待っていると彼は指折りで数え始める。
「えーと、結界、浮遊、風、炎――」
(えっ、そんなにたくさん?)
次々とあげていくアレクセイにエレナが目をぱちぱちさせると、アレクセイの近くに立っていた護衛の青年が咳払いをしてアレクセイの言葉を止める。
護衛の存在を思い出したアレクセイは、げっ、と声をあげてばつが悪そうに顔をしかめた。
「アレクセイ様。あなたはまだまだ訓練中の身だとニール様からお言葉をいただいているはずですが」
短い赤毛の青年がそうきっぱりと言うと、アレクセイはぷいっと顔を横に向けてむくれる。
「分かってるよ! でも言ったっていいじゃないか!」
「よくありません。制御しきれていないものは使えるとは言いませんから」
「ウィリアムのケチ! 意地悪!」
ぷく、と頬をふくらませるアレクセイに、エレナはつい頭をなでる。
その感触に横を向いていたアレクセイが勢いよくエレナを見上げた。
丸い目をじっと見つめ、エレナは柔らかく笑う。
それからなでていた手を動かしてぽんぽんと頭に触れた。
「たくさん練習したら今よりは上手に使えるようになると思うよ」
「本当に?」
「うん。私の弟がね、剣術が苦手で上手くなかったんだ」
エレナは何年も前の光景を思い出していく。
ジルは幼い頃も体を動かすより絵本を読んだりするような子供だった。
けれど、次期ノーランド家当主として剣術を学ぶべきだと父がジルに教え始める。
すると意外にもジルは負けず嫌いだったらしく、傷を作りながら必死に練習していた。
「だけどね、強くなりたくて毎日毎日練習を続けたの」
時には父に挑んであっさりと負け、自室で一人泣いていたことをエレナは知っている。
今では泣くことはなく体力不足はあるものの、父に近づくべく剣術の訓練は現在も欠かさないようだった。
「そうしたら最初よりもずっと強くなったから。だからアレクセイ君も練習すればその前よりもきっと上手になれるよ。頑張ってね」
「うん!」