私、立候補します!
2 出発したら大ピンチ
「癒術薬?」
ぽつりと呟くように返したレオナルドに大きく頷いてみせる。
(お咎めなしで母様の病気を治せるなら、女装してても王太子様でも話し相手になってみせる……!)
エレナにある種の使命感が生まれる中で部屋はしんと静まり返り、数秒後にレオナルドがくすくすと微かな笑い声をあげた。
一気に緊張が走ったエレナ達ははっと息をのむ。
やっぱり子爵家の人間が王太子相手に要求するなどまずかっただろうか。
(不敬罪ってどんな処罰があるんだろう。想像するのも嫌だけど後悔はないんだから……!)
さあ来いとばかりにレオナルドを見続けていると、彼は笑い声をおさめても笑顔のまま口を開いた。
「そんなのでいいの?」
「そっ、そんなのって癒術薬は貴重品と聞きましたが……」
「確かにそうだけどもっとあるだろう? 爵位の高い領地を求めるとか、大金を求めるとか」
探るような視線を受けてエレナはぎゅっと膝の上でこぶしを握る。
言われて気づいたが、今のエレナにとってはどんな物よりも母の病を治す薬が宝物になるのだから気持ちは変わらない。
「――いいえ。癒術薬がいいです。癒術薬しかほしくありません」
真っ直ぐな視線と声を送ればレオナルドの顔に柔らかな笑みが浮かぶ。
綺麗な笑顔を見ていると両側から息を細く吐く音が聞こえた。
「それでは希望通り報酬に癒術薬を用意しましょう。ブラウンさん、ジルさんもそれでよろしいですか?」
「私は構いませんが……」
「僕も異存はありません」
「分かりました。三日以内に必ず用意してこちらにお届けします」
「ありがとうございます!」
(これで母様は元気になれる!)
こみ上げる喜びがエレナを満面の笑顔にさせていく。
気持ちがあふれて思わずジルに抱きついている彼女に、レオナルドが爆弾を落としたのはわずか数秒後のことである。