私、立候補します!
「お気遣いありがとうございます。ですが、国境を守るのがワタシの役目。体に影響を受けることはいつも覚悟していますよ」
国境を任されているニールは魔力や魔術に敏感な体質であり、その分体が影響を受けやすく体調を崩すことがある。
通常はニールの体調を考慮してラディアントの結界のみだが、この度の状況では少しでも加勢がほしい。
「ですから、お二人がよろしければぜひお願いします」
領主として真っ直ぐな眼差しを返すニールにラディアントとチェインは頷いた。
***
結界の張り直しは明日の早朝からと話がまとまり、チェインは訪問の際の恒例となっているニールの部下との訓練を行うべく執務室を退室して行った。
ラディアントとニールは共にソファーに座り、互いの領地の近況を話し合う。
その途中、ニールはラディアントの姿をじっと見て首を傾げた。
紅茶を口にするラディアントは彼の視線に気づいてティーカップをソーサーに置いて口を開く。
「ニールさん? どうかしましたか?」
「――いえ。あなた様が女性を連れて来たので少なくとも彼女が恋人かと思いましたが、その姿のままのところを見ると違うのかと思いましてね」
「そう、ですね……」
改めて他人に言われると何とも言えない複雑な気持ちがラディアントの中で揺れる。
自分はエレナに少なくとも好意を持っているが、対する相手のほうはそう言った様子が見られない。
一言で表すなら一方通行と言える。
ラディアントは膝の上で手を組み、曖昧に笑った。
「間違っても恋人とは言えませんね」
ラディアントにとってエレナという存在は今までに出会ったことのないタイプの令嬢で、彼女の行動や考えの予想が全くつかない。
侍女のガーネットから女中の仕事や畑仕事をさせてほしいと言われてすぐに断ったと聞き、ラディアントはエドワードと一緒にとても驚いた。
チェインだけはおかしそうにしばらく笑っていて、その時の姿が記憶に残っている。
(チェインなら上手くことを運ぶのだろう……)
人当たりのいい彼ならば異性に関して後込みする自分とは反対に積極的に接するに違いない。
チェインは度々マイペースで軽率に見られることもある。
しかし、状況を上手く見極め行動に移す彼をラディアントは一目置いていた。