私、立候補します!
ニールはラディアントから視線を外さないまま、膝の上で手を組みかえてさらに言葉を繋ぐ。
「そうですか。しかし、ラディアント様は案外本気なのでは? アレクセイが彼女を城の案内へと連れて行く際、アレクセイの背中に鋭い視線をぶつけていましたよ」
「私が……?」
「ええ。アレクセイはまだ幼いですからそのような気持ちはないでしょうし思うことは否定しませんが、相手をよく見定めますよう忠告いたします」
ニールはすっと目を細め、鋭さを含んでラディアントを見る。
その表情は国の一部を担う辺境伯爵としての物で、ラディアントの気が張っていく。
「それは……っ」
「ワタシはまだ彼女を認めていません。滞在を始めてからひと月ほどとお聞きしましたが、信用するにはいささか早いのでは?」
違う、衝動的にそう返しそうになってラディアントは慌てて口を閉じる。
個人として違うと言うことは出来る。
けれど王太子としてその言葉を口に出すには確証がなかった。
エレナはライズ国の子爵令嬢で令嬢としては風変わり。
ライズ国王太子であるレオナルドがエレナを立候補者として認めていることが最もで唯一の確証とも言える。
違うと言いたいのに言えないもどかしさがラディアントをうつむかせた。
頼りなさげな様子を見せる王太子に、ニールは軽く息を吐いてみせる。
「それでも彼女を王太子妃候補にとおっしゃるのでしたら、ここに滞在する間はワタシも見定めさせていただきますのでご了承くださいね」
淡々と重ねられる言葉に短く返し、ラディアントはうなだれた。
***
月が顔を出している深夜に近い時刻、男性の姿へと戻ったラディアントは城内の廊下に立って国境側にある窓から濃い色が広がる外の景色を眺めていた。
日中と違い雪は止んでいるが、ラディアントの心は靄がかかったように感じられて睡眠を阻んでいる。
ベッドに横になればニールの言葉がぐるぐると頭の中をめぐって彼を悩ませた。