私、立候補します!
16 見学
ニールの城に到着した翌日。
いつものように早朝に目が覚めたエレナは訓練見学を踏まえて着慣れたワンピースに着替え、髪に櫛を通しているとばたばたと賑やかな足音が耳に入り扉へと視線を向ける。
足音がぴたりと止んだかと思うとこんこんとノックの音が聞こえた。
「エレナお姉ちゃん入ってもいい?」
「アレクセイ君――はい、どうぞ」
朝から元気な声にエレナは髪をとかすのを素早く終えて扉を開けていく。
すると、扉が開けきらないうちに少年がエレナの胸に飛びこんだ。
「エレナお姉ちゃんおはよう!」
「おはよう、アレクセイ君」
無邪気な笑顔で見上げた後にぎゅっと抱きついてくる彼にエレナも笑って抱きしめ返す。
すると扉を開けたままにしていた入り口からウィリアムが姿を覗かせた。
抱きつき合っている二人を見てほっと息を吐き出して近づいてくる。
「探しましたよ。こんなに早くに起きていなくなるから驚きました」
「だって今日はエレナお姉ちゃんがボクの訓練を見ててくれるんでしょ? 楽しみで目が覚めちゃったんだ」
「まだニール様に許可をいただいていませんが……」
早くご飯を食べて訓練する、と意気ごむ少年に、護衛は溜め息をのみこんで肩を竦めてみせる。
(座学もこれくらいやる気になっていただけると助かるのに……)
アレクセイは遊びたい盛りでニールに似ずやんちゃなところを持つ。
体を動かす剣術や目に見える魔術の訓練には積極的だが、じっとしなければいけない座学はどうにも苦手で集中力が続かない。
そのことに毎回ウィリアム達は手を焼いていた。
(エレナさんが側にいたら座学にも取り組んでいただけるのか?)
昨晩、ラディアント達の滞在期間を通常よりも延長すると使用人から聞いているため、その間に試すことが出来そうだとウィリアムは口端をつり上げてエレナと朝の挨拶を交わすのだった。
***
エレナはアレクセイに早く早くと急かされながら朝食をとり、腕を引かれて歩いていると廊下でラディアント達と遭遇。
アレクセイがニールに訓練しようと頼むもこれから結界の張り直しがあるから無理と一刀両断された。
「お父様……」
うるうると目を潤ませて見上げてくる息子にニールは涼しい表情を崩さない。