私、立候補します!
「そんな縋るような目をしても駄目です。お前の訓練も必要ですが結界の方が重要なんです」
カルバン家の者なら分かるでしょう、と言われたアレクセイは口をとがらせ父をきっと睨む。
睨まれたニールはおや、と眉を動かし口元だけで笑んだ。
「聞き分けるつもりがないのなら、この場で眠らせてやってもいいのですよ?」
細められた目と声色が厳しさを含んでアレクセイに向けられる。
さすがにこのような対応をされては退くしかないとアレクセイは幼いながらもそう判断して頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「分かればよろしい。結界を張るところをラディアント様に見させていただきなさい。遊んでいるよりはずっと有意義ですからね。――エレナさんはどうしますか?」
「え……?」
「城内でゆっくりしていても構いませんし、アレクセイと共に見ていても構いませんが」
ニールを始めとして、アレクセイ、ラディアント、チェインの視線がエレナに注がれる。
全員を見た後にエレナは戸惑いを覚えた。
自分を見ている中でただ一人、ニールの目が冷たさを含んでいるような気がしたから。
幼いアレクセイを除くにしても、会って間もないウィリアムなどのニールの部下の者達とも違う。
そう感じるとエレナは途端に居心地の悪さを感じて言葉をつまらせた。
口の開け閉めを繰り返して言葉を選んでいるとニールの横に立っていたラディアントがエレナに近づき、柔らかい笑みを浮かべてエレナの頭をなでる。
優しい手つきにエレナが彼を見上げればなでる手が止められて離れていく。
「ラディアント様……?」
「エレナさんの好きな方を選んでいいんだ。あなたはどうしたい?」
「私は――……」
まるでニールを背中に隠すように視界を遮るラディアントに、エレナは体の力が抜けていき改めて考える。
エレナ自身の気持ちは一つ。答えるべく息を吸って口を開いた。
***
降りしきる雪の中、エレナ達は大地を踏みしめる。
次から次へと降る雪は地面に落ちて瞬く間にとけて消えていくが、各々の外套につく雪は次第に増えていった。
エレナは馬車の中で借りたラディアントのロングコートを再び借りて身に纏い、アレクセイと手を繋いで歩く。