私、立候補します!
コートを貸しているラディアントは別のロングコートを軍服の上に纏っており、エレナがほっと息を吐き出すと呼気がかすかに白くなり空気中に消えていく。
城から出て真っ直ぐ歩いていたラディアント達は百メートルほどを歩いたところで立ち止まった。
エレナがアレクセイに手を引かれてニール達の近くまで歩くと、一歩向こうは真っ白な雪が積もる景色が広がっている。
エレナは一線で違う光景に目を見開いた。
(ここが国境? 向こうとこちら側で景色が全然違う)
真冬と春が近い時が隣り合っているようでエレナは不思議な気持ちを抱きふらりと一歩踏み出した。
すると強く肩をつかまれて後ろに引かれバランスを崩す。
どん、とぶつかり顔を上に向けると先ほどのように冷たさを含むニールと目が合い、突然のことに心臓が速い鼓動を刻む。
「結界に触れないで下さい。魔力のない人が触って結界が消えてしまっては困りますから」
「すっ、すみません……!」
エレナは急いでニールから離れ、勢いよく頭を下げた。
自分の行動が一歩間違えれば大変なことになっていたかもしれない。
そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になっていく。
「見るのは勝手ですが、余計なことはしないで下さいね」
ニールは頭を下げるエレナを一瞥して国境側に向かって右の方へ足を進めた。
(迷惑かけちゃったな……)
先ほどとは違い、とぼとぼとついて行くエレナ。
手を繋ぐアレクセイの励ましが胸にしみる。
「今日はこちら側に取りかかっていただきたいのですがよろしいでしょうか」
少しだけ進めた歩みを止めてニールは国境をそって遠方へと視線を向け、ラディアントはすぐに頷いた。
「それでは中心に近いこの辺りをいくつか張り直して、後は国境の端を二重結界にしてそこからこちら側へ向かってかけ直しましょうか」
ラディアントの結界はいくつもの結界を繋ぎ合わせて出来ている。
国境の中心と一定の間隔を置いた場所を核として術を施し、何処かの結界が破られても全ての結界が一気に壊れることのないようにしていた。
地図につけられた印部分をざっと思い出して大体の予定を立てていく。
(国境を二つに分けて考えると、一日に進められるのは片側の内の三分の一が限度か……)