私、立候補します!
結界術は魔力を多く消費する上に他の魔術よりも集中力がいる。
もう片側もほぼ同数と考えると最低で六日必要であり、ラディアントは思わず王族らしからぬ舌打ちをしそうになった。
普段であれば結界を張るにあたってこのように気を揉むことはまずないが、この度はニールのエレナへの接し方に気が気ではなく焦っている。
(チェインがいてくれて助かった――)
先ほどのニールのエレナへの言い方に思わず口が出そうになり、チェインに肩をつかまれて止まることが出来たのだが、またニールがエレナに冷たい態度をとるのではと冷や冷やする。
(――私だって分かっている。彼なりに国境を守る者として振る舞っていることくらい)
国王の話によれば少年の頃のニールは柔らかな性格をしていたそうだ。
しかし、カルバン家の当主となって年月を重ねていくうちに現在のように思慮深く、そして敵か味方かを自ら判断するまでは一線を引いている。
ニールのことを考えたラディアントはニールがエレナと初めて会った時のことを思い出した。
(ニールさんは自分のことをワタクシと言っていた。最初から距離を置いていたのか……)
ニールが自分をワタクシと言う時は一線を引いている時。
ラディアントは後ろで不安げな顔をしているエレナをちらりと見て、滞在期間中にニールが認めてくれればいいのにと願った。
***
「エレナさん、ラディアント様の結界術を見られるのは貴重だからよく見ているといいよ」
ラディアントとニールから離れ、エレナとアレクセイの横に来たチェインが声量を抑えて耳打ちをする。
頷きで返したエレナは斜め後ろの位置からラディアントの様子をじっと見た。
両手を前に突き出すように上げ、手のひらを結界があるだろう方へ向けてラディアントは目を閉じる。
少し経つと両手の平に淡い光が生まれ、光の範囲が大きくなっていき、目を開けたラディアントはその光を手を動かすことで移動させた。
――すると、エレナには空間として見えていた場所に当たり、一瞬光り輝く壁のような物が見えてエレナはあげそうになった声を慌てて口に手をあてることで防ぐ。
光の壁は一瞬で見えなくなり、また向こうの景色を見せていた。