私、立候補します!
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(本当に信じられない!)
がらがらと馬車の中で揺られながら、エレナは笑顔のままとんでもないことを言い放ったレオナルドの顔が頭から離れず憤慨していた。
(確かに薬をもらえることになってよかったけど! かわりにラディアント様の所に行くのも覚悟したけど! 時間がないからそのまま出発ってあんまりだ――!)
おかげで母の様子を一目も見ることは出来ず、領民達に挨拶出来ず。大慌てで荷造りをし、家の前に停車していた二台の王族専用馬車のうちの一台に放りこまれて今にいたる。
ドレスとワンピースをそれぞれ数着ずつとコルセットや下着など、必要そうで思いつくものを大きめの鞄につっこんだ。
何か足りなければお願いして借りるしかなさそうで到着前から申し訳なくなるのだが、こうも急ではどうしようもない。
ノーランド家の領地は辺境伯爵領の近くにあり、ラディアントが領主を任されている領地は王都に近い。
何日もかかるのかと思われたがサセット国に入れば魔術による移動が可能なエリアがあり、行き先を言ってそのエリアに入ると国外の者でも一瞬で移動出来るそうだ。
あまりに便利な仕組みと感じたエレナは何とも言えない気持ちになった。
(いいなー。ライズ国にもあったら領地内の移動とか買い物とか便利なのに)
窓から流れる景色を眺めながらそう思う。ノーランド家の領地が他の子爵領よりも狭いとはいえ端から端までの移動は時間がかかるもので、便利な移動手段があれば父も楽なのにと思った。
(それにしてもこんな広い馬車に一人って暇だなあ……)
さすが王族専用の馬車だけあって中は広く装飾は華美であり、荷物を置いても余る座席に落ち着かない。
話し相手がほしいと思っても馬を操る御者が外にいるだけなので、やり場のない憤慨していた気持ちは徐々に眠気へと変わっていく。
(寝よう。寝てる間に着くよね)
欠伸をかみ殺しながら背もたれに体を預けて目を閉じた。