私、立候補します!
(今が戦乱の時代じゃなくてよかった……)
アレクセイのような年若い者も戦力として駆り出されるかと想像するといたたまれなくなる。
カルバン家の次期当主として色々と学び知っていくだろう彼が、何時までも明るい笑顔を忘れないままでいてくれたらいいなとエレナは思う。
考えに耽っていると大きな手に手首を包まれる感覚を覚えて意識を現実に戻した。
ラディアントがエレナの手首に触れ、眉を寄せて苦しそうな表情でそっとなでる。
するとラディアントの触れた場所が心地よい熱を持ち、打ち身のあとが一瞬で消え去った。
「ありがとうございます」
「夢中になるのは悪いことではないけど、私もニールさんの意見に一部賛成かな。綺麗な肌にあとが残ったら大変だよ」
「綺麗だなんてそんなことありません! 日に焼けた肌ですから!」
「健康的で私はいいと思うよ? ――さあ、他に怪我したところを教えて?」
「へ……っ」
「全部治してあげるから隠さずに言うんだよ」
(ラディアント様の目が笑ってない……!)
確かに口は笑みを作っているのに、目は真っ直ぐエレナを射抜いている。
逆隣に座っているチェインがあーあ、と声を出した。
「ラディアント様は基本的に怪我があると知ると放っておけない方だからね。言わないとあちこち探られるかも」
(あちこちって言ってもラディアント様は本来男性だよね……?)
頬をひくつかせてラディアントを見ても彼の表情は変わらないままで、エレナはどうしようか頭を悩ませる。
本来異性であるラディアントに体のあちらこちらを治療されることへの抵抗と、結界術を行ってきた後に治してもらうことに余計に申し訳なさを感じてしまう。
(どうしたらいいの……!)
そわそわと視線を動かすエレナにラディアントはぴったりとくっついて距離をなくしてくる。
横に移動したくても反対にはチェインがいて進路を封じているため、避けるには立ち上がるしかない。
よし、と足に力を入れて逃げ出そうとした瞬間、両肩にずしりと重みを感じて動けなくなった。
「エレナさん。逃げたら駄目だよ」
「私がしっかり治してあげるからね」
(うわぁ――!)
両耳に告げられた言葉にエレナはもう駄目だと心の中で叫び声をあげた。