私、立候補します!
「ここは一番危険な国境なんです。ここを破られればどれほどの国民が危険にさらされるか……。――例えワタクシの命に代えてでも守り通さなければなりません」
「カルバン様……」
静かに、しかし真っ直ぐな言葉がエレナの耳に入って胸を刺激する。
ラディアントが次期国王候補としているように、ニールもまた辺境伯爵として重い役目を担っている。
そのことを目の前で見せられたエレナはどう声をかけたらいいのか分からない。
名前を呼んだきり言葉を繋げられないエレナへと視線を戻したニールは微かな笑みをもらして彼女の肩に触れた。
「おかしな方ですね。あなたが思いつめる必要などありませんのに」
「申し訳ありません……」
「――さあ城に戻りましょう。あなたが風邪をひいてしまってはワタクシが怒られてしまいますからね」
肩に置いた手を背中に移動させたニールは軽く押して歩くように促してくる。
おずおずと足を動かし始めたエレナと共にゆっくりと歩きながらニールは一言放った。
――ワタクシの体調が悪いことは誰にも言わないで下さいと。
ニールの強い気持ちがこめられた言葉を聞いたばかりのエレナは、戸惑いながらも頷くことしか出来なかった――。