私、立候補します!
18 最終夜
吹雪で視界が遮られる中をラディアントは腕で顔を庇いながら国境へと歩く。
ラディアントの後ろにはチェインも同じような姿勢で歩くがそこにニールの姿はない。
城を出て国境まで真っ直ぐ歩き着いたラディアントは後ろを向いて城がある方を仰ぎ見た。
風が強いために後ろで一つに結ばれた髪が激しくなびく中ラディアントは目を伏せ、自分達の前で体勢を崩したニールの姿を思い出していく。
――結界術の施しを始めて五日目が終わり、いよいよ明日の一日で終わるとラディアントが思っていた昨夜のこと。
ニールと就寝の挨拶を交わし、彼の執務室を退室しようと扉を開けた瞬間に背後でどさりと耳に響く音がして勢いよく振り返った。
すると窓の近くに立っていたニールが床に伏せていたため、慌てて駆け寄り様子を見ると荒い息遣いと高熱を感じてラディアントは非常に驚いた。
ラディアントはすぐさまチェインと共にニールを寝室に運び、翌日の今日も休んでいる。
「まさか結界術をかけ直し始めた初日の夜から具合が悪かったなんて……」
「エレナさんから聞いて驚きましたね」
普段魔術頼りのラディアントやチェインは魔術なしにどう対処すればいいのか戸惑った。
そんな時にエレナがアレクセイを伴って息を切らしてニールの寝室にやってきたのだ。
エレナは水が入れられた洗面器とタオルを手にしており、ベッド横の台に置いてタオルを水に浸して絞りニールの額にそっとのせる。
すると、眉を寄せて苦しそうなままだったニールの表情が少し和らぐ。
エレナはほっと息を吐いてニールの体調が魔術をかけ直し始めた初日の夜には悪そうだった、誰にも言わないでほしいと言われたとラディアント達に話したのだった。
「結界の強化は避けた方がよかったのか――」
「ですが、ニール閣下が自らいいと仰っていましたし、今までにないほどの補強か所ですから自分は間違っていないと思いますよ」
真っ直ぐ見つめるチェインに頷き、ラディアントは集中して予定通りに今日で終わらせると気を引き締めコートを翻した。
***
「今日は荒れた天気ですね……」
部屋の窓から視界が真っ白に見える雪を見ながらエレナが呟けば、ベッドの上で上半身を起こしていたニールが呟きを拾ってああ、と反応した。