私、立候補します!
ニールはおかわりを頼みながら、今頃ウィリアムのもとで嫌いな座学を受けているであろう息子を思い浮かべる。
「エレナさんがよろしければ、昼食の際にアレクセイにこのミルク粥を出させていただいても構いませんか?」
「アレクセイ君にですか? 私は構いませんが、昼食には物足りないかと思いますが……」
「夕食までの間におやつをとるので大丈夫でしょう。――アレクセイは母の料理を知らないものですから、この優しい味の料理を食べてもらいたいのです」
「……カルバン様。もしもアレクセイ君が気に入った時は料理人の方に頼むと作っていただけると思います。このミルク粥の作り方を書いたメモを料理人の方に渡してありますから」
「いいのですか?」
ニールは目を大きく開いてエレナを見つめる。
ニール自身ミルク粥を知らなかったので、この料理は少なくともサセット国には浸透していないと彼は思う。
米の他に牛乳や卵を使っていることから栄養価が高く、消化にいいことも見てとれ、ニールは自国の料理をあっさりと教えるエレナに驚いた。
有事において食事を重要事項の一つと捉えているニールは信じられない気持ちでエレナを見る。
じっと金色の目で見られたエレナはうーん、と考える仕草を見せた後に口元をゆるめていく。
「構わないと思います。ライズ国の法律に他国に料理を伝えることを禁止する物はありませんから」
エレナはミルク粥を味見した際の料理人の様子を思い出して笑みを深めていく。
馴染みのない料理に料理人は首を傾げながら粥を一口すくって口に運び、もぐもぐと口を動かした後に顔をほころばせた。
美味しい料理は人を笑顔にさせる。その瞬間を見ることはエレナにとっても嬉しい気持ちになる瞬間で、共に笑顔になる。
目を輝かせた料理人に口頭だけではないレシピがほしいと言われ、エレナは快くレシピを書いたメモを渡したのだった。
「ありがとうございます。――しかし、あなたは不思議な方ですね。ワタクシと出会って間もないのに看病係をして下さるとは」
「そうでしょうか? 私はお世話になっている間にお役に立てて嬉しいです。体調不良はない方がいいですけれど……」
ニールは自分が渡した器に粥を入れていく様子を見ながら変わった人だと思う。