私、立候補します!

「体調はどうですか?」

「エレナさんのお陰でほとんどよくなりました。今夜眠れば明日には回復すると思いますから、ラディアント様方は予定通り明日の午前中に出発いただいて構いません」

「大丈夫ですか? 一日ほど延ばしても私達は構いませんが……」

 ラディアントが心配げに問えばニールは首をゆるく横に振って否定する。
 未だ微熱程度の熱は残っているが、この位ならばニールにとってはよくあることで支障はほとんどなかった。
 そのため、通常よりも滞在期間が長い今回は特に早く自分の城に戻って休んでほしいとニールは思っている。
 意見を曲げないニールの様子を見たラディアントは、眉を下げて困ったように笑った。

「……分かりました。ニールさんがそう言うのでしたら、予定通り明日に出発します」

「その運びでよろしくお願いします。――ラディアント様。話は変わりますが……」

 エレナさんの滞在期間を延ばしていただけませんか、と続けるとラディアントの表情が一変する。
 穏やかな様子から一瞬で張りつめた空気を纏い、鋭い視線をニールにぶつけた。
 あまりの変わりようにニールははっと驚き、次いでふっと息を吐き出して言葉を繋いでいく。

「冗談ですよ。アレクセイが気に入っているので言ってみただけです。ですからその殺気のような鋭い気を消して下さい」

「……っ!」

 ラディアントは言われて気づいたとばかりに驚いた様子で目を見開いき、その姿にニールが小さく息を吐く。

「やはりエレナさんのことを妃候補にするおつもりですか?」

「……私がエレナさんに好意を持っていることは確かです。ですが、ニールさんが数日前に言ったように王太子としてどうかと聞かれると迷ってしまいます」

 視線をさまよわせるラディアントの様子にニールは考えをめぐらせる。
 先ほどの鋭い気は殺気と相違なく、ニール自身ひやりとした。
 ここ数日のラディアントがエレナに向ける視線は愛おしげな物だったと思い、それほどエレナに好意を抱いているのに彼自身王太子として彼女を切り捨てられるのかと考える。

(おそらくそれは不可能。無理に切り捨てればラディアント様は一生呪いから解放されない可能性もあるでしょう)

 数日間エレナと接してきたニールは、候補の一人に加えることは問題ないのではと答えを出した。

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