私、立候補します!
19 急展開
寝衣のスカートの裾に足の動きを妨げられながらも階段を上がりきったエレナ。
軽く息をはずませながら左右に続く廊下に足を進め声が聞こえた方向を探る。
すると声とばたばたとした足音が耳に入り、エレナは左側――ニールの部屋がある奥の方――へと足を動かした。
(何これ……っ!)
ニールの部屋へと近づくほどに兵士達が廊下のあちこちで人形のようにくたりと倒れており、エレナは壁に背中を預けて座りこんでいた兵士に近づき口元に手を触れそうなほどに近距離に持っていく。
(……よかった。息はしてる)
眠っているような様子にとりあえずほっとし、同じように数人確認したが皆同じだった。
一体何があったのかと考えたところで奥で叫ぶような声が聞こえ、エレナは兵士達の間を抜けて先へと急いだ。
***
ニールの部屋へと近づくと彼の部屋の扉は開け放たれていて、近くに人がうずくまっている。
エレナが駆け寄り顔を覗きこむように見ると、相手はエレナ達と共に滞在していたラディアントの部下の一人だった。
廊下に設けられた明かりに照らされる彼は腕にあたる部分の服を濡らし、眉を寄せている。
兵士は自分を見るエレナに気づくと一瞬息を止め、その後小声でエレナに話しかけた。
「ラディアント様の所へお逃げ下さい……っ」
「一体何があったのですか?」
「我々にもよく分かりません。夜間の見回りをしていたところにカルバン閣下のご子息がいきなり現れて――」
(アレクセイ君が……? ……って、その前に怪我の手当てをしないと!)
エレナは兵士が持っていた短剣を借り、自分の寝衣の袖部分を切りとった。
そして兵士に怪我をした場所を聞き、その部位を覆って圧迫するように結ぶ。
「すみません……」
「いえ。ですが、どうしてカルバン様のご子息が?」
「いつもと様子が違ったので具合でも悪いのかと声をおかけしたらいきなり襲いかかってきたのです。しかも大勢の者を眠らせたりとでたらめな強さで――」
男性が言葉を言い切らない内に部屋の中からけたたましい笑い声と苦しげに叫ぶ声が聞こえ、エレナは兵士の制止に首を横に振って部屋へと足を踏み入れた。