私、立候補します!
(何者かの魔術か? ――それにしては魔力の動きを感じない……)
ラディアントが剣を握る手に力をこめてもアレクセイの剣を押し返せず、拮抗状態の中で相手の目が細められるとラディアントが体勢を崩し始めた。
力をこめるもぎりぎりと剣を押し戻されて焦りが生まれる。
とっさに魔術を使うことを考えたが相手はアレクセイの姿ということにその考えを一時止め、ラディアントは今の自分に出来る限りの力を腕にこめて剣を振り切った。
すると相手の剣にひびが入ってやがてばらばらと砕け散り、相手は忌々しげにラディアントを睨む。
「何故魔術を使わない。お前達の得意技だろう?」
「何も私達は魔術だけが全てではない」
「魔術を使わずに勝てるのか? 我らは忘れない――あの戦で数え切れない仲間が魔術に苦しめられたことを……!」
アレクセイはこぶしを強く握り歯を食いしばる。
次いで開いた手に氷が集まっていく瞬間を見逃さず、ラディアントは剣を薙いで相手の体を払いとばした。
「――く……っ、この子供の命が惜しくないのか……!」
受け身をとることも出来ずに床にうつ伏せに倒れた少年は、顔を横に向けて吐き捨てる。
そばに足を進めたラディアントは顔の真横に剣を突き立て冷たい眼差しを注いだ。
「個人としては惜しくとも大勢の命にはかえられない。――それが王族としての答えだ」
(ラディアント様……)
ラディアントが移動したことによりエレナは離れた場所から二人の様子をうかがっている。
アレクセイの体が飛ばされた際に思わず叫びそうになった口を両手でふさぎ、エレナはどうしたらいいのか判断に迷う。
敵はアレクセイではない。しかし体はアレクセイ本人の物で、このままではラディアントに殺されてしまう。
血に濡れるアレクセイの姿が浮かんだエレナはラディアントの名を呼んでしまった。
「何か方法はありませんか? このままではアレクセイ君の命が――」
「あなたは口を挟まないでほしい」
「え……」
「これは私達の問題だからあなたの意見は聞き入れられない」
「ラディアント様……」
ラディアントの冷たい声にエレナは小さな声で名前を呼んで言葉を止める。
はっきりとラディアントに線を引かれた瞬間、エレナの胸はちくりと小さく痛んだ。