私、立候補します!
ラディアントやチェインを襲ってきた兵士達も同様で、気がついたら何故か四階にいて体のあちこちが痛いのだと首を傾げており、これにはチェインが苦い顔をしている。
チェインは魔術の使用を避けるために緊急時以外は部屋の外で待機とラディアントから命じられていた。
しかし入りたそうな顔をずっとしていましたよ、とエレナが手当てをした兵士が困ったように笑った。
「あんなに苦戦したのにちっとも覚えていないなんて複雑だよ」
ニールの怪我の具合を確認しながらチェインは苦笑いを浮かべ、横で膝をおって座るエレナを見た。
ニールは斬られた傷と飛ばされた際の打撲か骨折が見られ、癒術薬の方がニールの負担は少ないだろうからと彼を起こして服用してもらう。
ニールは何とか壁を支えに座る姿勢をとり、チェインから受け取った癒術薬を水と共に飲みこんで小さく息を吐き出した。
「……申し訳ありません。お帰りになる前夜にこのようなことになってしまって……」
「気に病まないで下さい。今までこんなことはありませんでしたから仕方ないですよ」
顔を歪めるニールに向かってチェインは常と変わらない笑みを浮かべてニールの肩にそっと触れる。
チェインの笑顔にニールはほんの少しだけ気分が浮上したが、離れた場所に見えるアレクセイとラディアントの姿を視界に入れて再び心苦しくなっていく。
自分がカルバン家当主として領地を守らなければならないのに、領地どころか城の中で起きた騒動すら鎮めることが出来なかった。
国境を預かる者として相応の処罰を受けなければならないと己に語りかけ、責任を果たせなかった恥ずかしさと悔しさから再度顔を歪ませた。
エレナはニールの表情を眉を下げて気遣わしげに見た後、後ろを向いてアレクセイの様子を見る。アレクセイは未だぴくりともせず意識が戻らない。
心配でたまらないエレナはチェイン達に声をかけてから立ち上がってニールのもとを離れ、再びアレクセイとラディアントのところで腰を下ろした。
微かに聞こえる呼吸の音がアレクセイの命が繋がっていることを証明していて、エレナはアレクセイの顔の近くに耳を寄せる。
弱くても不規則でも呼吸をしていることにエレナは生きているのだと胸が震えた。