私、立候補します!

 また明るい笑顔を見せてほしい。また名前を呼んでほしい。目が覚めたら彼がしてくれたように自分から手を繋ぎたいと思う。

「アレクセイを部屋に運ぼうと思う。エレナさんも来るかい?」

「よろしければご一緒させて下さい」

 エレナはラディアントの言葉に頷いて立ち上がろうとするが、アレクセイの口から声がもれたのを耳に拾って再び顔を寄せた。
 苦しげに寄っていた眉が動き、まぶたが震える。少しするとアレクセイがゆっくりとまぶたを開いた。

「アレクセイ君!」

「エレナ、お姉ちゃん……? ボク――っ」

 アレクセイは起きあがろうとして感じた体の痛みに顔をしかめて目に涙を浮かべ、エレナをじっと見る。
 エレナはアレクセイの名前を何度か呼んで片手を握り、よかったとつぶやいた。
 ラディアントはアレクセイの様子を見ながらいくつか質問を投げかけ、弱々しくも返された言葉にアレクセイの頭をそっとなでて微笑む。
 なでられたアレクセイは気持ちよさそうに目を細め、その様子にエレナは胸が少し温かくなるのを感じ、ラディアントの浮遊術でゆっくりと運ばれる後ろをついて行った。


***


 アレクセイの部屋はニールの部屋と同じ階にあり、時間はそれほどかからずに着くことが出来た。
 アレクセイの部屋は明るい色を中心にした内装で、家具なども明るい色や暖かい色で揃えられていて本人の人柄によく合っていた。
 傷が背中にあるためアレクセイはうつぶせの姿勢でベッドの上へと運ばれ、静かに下ろされる。
 アレクセイは片手を動かし伸ばしながらラディアントの名前を呼び、呼ばれた彼は小さな手を覆うようにして触れた。
 いつもは温かな手が氷のように冷たくなっていることにラディアントは胸を痛めるが、顔には出さずにどうしたんだいと声をかける。

「何があったのですか? ボク、覚えていなくて……」

 お父様は、城のみんなは、と問いかけるアレクセイにラディアントは笑みを浮かべて大丈夫だからと返してやる。
 まだ城内にいる全員の安否が確認されたわけではないが、怪我を負って不安定な状態を悪化させるわけにはいかないとラディアントは考えた。
 何者かの力を受けていたのは明白で、今はこれ以上負担をかけない方がいいと判断する。

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