檸檬
聴覚と嗅覚と視覚で、
「パートナーとしては最高なんだけどね、仕事の」
事務仕事をする為にと借りたマンションの一室。壁に寄りかかっていた折りたたみの椅子に座って、天井を仰ぐ。
噎せ返るような煙草の匂いは、私のもの。そしてそれはあの人と同じものでもあった。
煙草を吸わない彼は、部屋に入るなり窓を開けた。冷たい風が入って、出っぱなしの資料を撫でる。
「元々姉の男だったし、あんな女と付き合う可哀想な男って思ってたから。デザインを見たときは―――」
「好きだって想ったんじゃないですか?」
「ときめいたけど、多分それは恋慕より憧憬に近い」
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