檸檬
何も言わずに着いて行けば、中庭のベンチのような所に座らされた。隣に榊が座る。
「別に、渡す為だけに来たんだけど」
「洽さん、あの子は友達の彼女だから。そういうんじゃないから」
「どうしたの、急に」
あの子と呼ばれるのか。
私は、あの人って呼ばれるんだろうな。
そんなことはどうでも良い。私はこの資料を届けに定期外のここまで来たのだから、受け取って貰わねば困る。
摑まれた手首はそのままで、先の資料が風にはためく。
「洽さん、こっち向いて」
それは言われた通りには出来なかった。
向かないと分かった榊が屈むようにして、顔を近付ける。