檸檬
先行き不透明なブランドだけれど、私は高谷のデザインが美しいと思っているので、あわよくば海外の偉い人の目に止まって、デザイナーとして世界に出ていってくれたら、なんて思ってしまう。
「高谷さんの両親はどっちもデザイナーですよね」
「うん、しかもシューズ。他人がこれから習うようなデザインや作り方、幼い頃に全部覚えたって涼しい顔してた」
「羨ましい」
心の篭っていない声。後ろから私を抱きしめて座る榊の顔は見えない。
本当に羨ましいだろうか。
榊は望まれたけれど持っていなかったもの。高谷は望まれていなくても持っていたもの。