君は僕を好きになる。
「飲む?」
「……いらない」
差し出されたのは、温かい缶コーヒー。
可愛げなく断る私を気にすることなく、相模《さがみ》は「あっそ」と一言口にして、缶を開けた。
瞬間、漂ったコーヒーの香りに、胸がギュッと締め付けられる。
――思い出しちゃいけない。
言い聞かせるように握った手に温かいものが触れ、ドキリとした次の瞬間には、持っていたスマホを奪われていた。
「またドタキャン? てゆーか接待って、これ信じてる?」
全てを見透かしたような彼の目はあの日と同じで、本当に嫌になる。
忘れたいのに。
「また泣くなら、慰めるけど?」
「……っ」
この男は、こうして何度もあの夜のことを思い出させるから嫌だ。
あの夜もこんな風に、空には雪雲が垂れ込めていて、直哉の浮気を初めて知った私の隣には、相模が立っていた――。