my sweet devil
「っ、サッカーするの!」
「はいはい」
杉浦くんは、私の頭をポンと叩いて、グラウンドに向かう。
途中、私を振り返って言った。
「芽依って、呼んでいい?」
そう言った杉浦くんに、気付く人は誰もいなかった。
みんな喋って笑って楽しんで
まるで杉浦くんと私の間だけ、時間が止まってしまったかのようだった。
「芽、依…」
「うん、ダメ?」
ねぇ、あっちゃん。覚えてる?
初めて『家族』として会った日、もうお互いに、お互いの名前を知ってたよね?
その理由を、あっちゃんは覚えてる?
「……ごめん」
「芽依ちゃん?」
「ごめん」
名前は、特別なものなの。
私は杉浦くんから目を逸らして、グラウンドに向かった。
ピーッ
長い笛の音と共に、蹴り出されるボール。
私はサッカーは、ううん、運動全般苦手だからボールが来ないところで逃げ回っていた。
……ねぇ、あっちゃん。
私はちゃんと覚えてるよ。
『本当』の二人の出会い。
恋に堕ちた、あの日を。
ふと、グラウンドに落ちていた桜の花びらを見た時
「芽依!」
みなみの声が聞こえた。
*