遊川さんは今日も最強
　時は１１月。

現在『ハートフルソーイング』編集部では２月号に掲載する原稿を作成中だ。
締め切り間近の編集部は色々と殺気立っている。

「若葉ちゃん、この原稿どうなったの？」

「もう少し待ってください。作家さんのコメントがもらえてなくて」

鋭い語気で追求するのは、編集部の実権を実質的に握っている遊川夏生（ゆかわ　なつき）さん２９歳。

そして、頭を下げているのは、俺の同期である大田若葉（おおた　わかば）２５歳だ。

「締め切り過ぎてるでしょ。間近になったらごきげん伺いがてら様子見ておかないと」

「すみません。午後の外出の時に顔出してきます」

「強気でいきなさい。何かあったら責任とってあげるから」

遊川さんは面倒見がいい。
口調は厳しいが、細やかに部下の進捗に目を配っている。

「次、網目」

「うわあ、はい！」

突然名前を呼ばれ、俺は思わず立ち上がった。

「アンタは出来たの」

「すいません、まだです」

　俺がやらされてるのは二月号のキットの制作だ。

曰く、初心者向けのキットを初心者がちゃんと作れるかを知りたい、とのことで、四月に人事異動で配属されて以来、俺は必ずキットの作成をさせられる。

この上、客からの相談電話も受けろと言われているがそれだけは断固拒否している。
相手だって男にでられたらびっくりするだろう。


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