でも、好きなんです。

飲み会の席で・・・

結局、部の飲み会は、翌週の金曜の夜六時からに決まった。

参加者は二十名ほどで、店は、駅前のお洒落なダイニングバーを貸し切るそうだ。山村課長ももちろん参加だった。

山村課長は、職場の飲み会には大抵参加している。

 仕事を終えて、店に行くと、感じの窪田さんが店の入り口で待っていた。いつもより少し気合いを入れたグレーのスーツにブルーのワイシャツを合わせている。

「あ、河本さん、お疲れ様。席はね、くじ引きだよ。さ、引いて引いて。」

 窪田さんに促されるまま、どきどきしながらくじを引く。

 あぁ、神様、これから真面目に働きます、善行も積みます、だから、どうか課長の隣、課長の隣の席を・・・。

 くじに書かれていた数字は、『3』。席に置かれた札を、手前から順に見ていく。

 うそーーー!

 や、やった、課長の隣・・・。今日まで生きてきて良かった。

こんなことって世の中にあるんだな。

 歓喜に震えながらくじを握る手をなんとかおさえ、120%の緊張感を抱えたまま、課長の隣の席に腰をおろす。

「あ、河村さん、隣?」

「あはは、普段も近いのに、また近くになっちゃってすみません。」

「いやいや、嬉しいなあ。普段は忙しくて、なかなかゆっくり話す時間がないから。」

そう言って、山村課長がグラスにビールをついでくれる。

間もなくして、乾杯の音頭があり、会場はざわめき声でいっぱいになった。

周囲が騒がしくなるにつれて、山村課長と会話をするにも、なかなか声が聞き取れない。

自然と顔を近づけて、耳打ちするように会話をするようになる。その距離感にどきどきしっぱなしだった。

日ごろの仕事の話や、休日の話、社内の噂話など、二人でしばらく話し続けてしまい、あまりの嬉しさに、これは夢なんじゃないかと思えるほどだった。

「河本さん、髪型変えたよなあ。」

そう話す課長の顔は、だいぶ酔いが回っているようで、ほのかに紅い。

酔っぱらった課長の瞳は、少しうるんで、色っぽく見えた。

そんな瞳で見つめられると、息もできないような気持ちになる。

普段、隙のない表情で仕事をしている課長の姿とのギャップが、さらに私をどきどきさせる。隣にいるのは、職場の上司ではなく、私の好きな人、ただそれだけだ、とそう思った。

「あ、はい・・・。少しは、身なりに気を使ったほうがいいのかなあ、なんて・・・。私って、ただでさえ地味って感じで・・・。」

あーバカバカ、自分でそんなこと言うなってば。

こういう自分、ほんとにウザい。

そう思うのに、勘違いと思われるのが怖くて、自虐的になってしまう。

こういうのが駄目なんだ、ってわかってるのに。
< 11 / 70 >

この作品をシェア

pagetop