でも、好きなんです。
「いやいや、河本さんは十分綺麗やって。」
山村課長が少し小声になって言う。元々関西出身の課長は、時々関西弁が出るが、それが少年のようで、私はくすりと笑ってしまう。
「え?あ・・・、えっと、な、なに言ってるんですか。・・・課長もお世辞とか言うんですね。」
言いながら、私もだいぶ酔ってるな、と思う。こんなふうに軽口を叩けるなんて。
「本当だよ。河本さんって、よーく見ると、すごく綺麗な顔してるよ。」
課長から、こんな風に言われたのは初めてで、というか、男の人からこんなふうに言われたのも初めてで、どう返していいのか困惑していると、隣の課の係長の今井係長が、私と山村課長の前にやってきた。
今井係長は、役職は課長よりも下だが、年齢は山村課長よりも五つほど上だ。おせじにも仕事が出来るとは言えないため、出世が遅れていることは、口には出さないが、誰もが知っている。
それに加えて、酒癖の悪さで有名だ。片手に焼酎のロックを持っている。
「俺、だいぶ酔っぱらったなあ、家まで帰れるかなあ。」
すでに呂律の回っていない口調で、私に向かって言う。
「係長、ちゃんと帰ってくれないと困りますよ。」
山村課長が、冗談交じりにたしなめる。
「いやあ、どうかなあ。河本さん、一緒に帰ろうか。河本さんのこと、どこかに連れて行って、襲っちゃうかもしれんけどなぁ。」
そう言いながら、係長がにやにや顔でこちらを見ている。
係長が、私のほうに体を寄せてこようとするのを、山村課長が制止した。
「それは駄目です。」
そう言って、課長が私を係長から遮るように手を伸ばす。
その瞬間、課長の腕が少しだけ、私の体に触れた。
電気が走ったように、どきりと心臓が大きく高鳴った。
私の体が、課長の体と触れてる。
・・・課長も気がついているのかな。
気がついていないのかもしれない。
気がつかないでほしい。
ずっとこのまま、ほんの一部でも、触れ合っていたい。
「山村ぁ、お前のほうが怪しいぞ。マジになっちゃって。」
「そりゃうちの大事な部下ですから。」
今井係長をさらりとあしらって、
「河本さん、大丈夫?」
と私を気遣ってくれた。
いつもよりずっと、近い距離に課長の顔がある。
「だ、大丈夫です・・。」
蚊の鳴くような声が出てしまう。
正直言って、酔っぱらった係長の目は、どろんとしていて、なんだか少し恐かった。
懸命に笑顔をつくるけど、少しひきつっていたかもしれない。
課長は、心の底から心配そうな顔で、私を見ていた。
山村課長が少し小声になって言う。元々関西出身の課長は、時々関西弁が出るが、それが少年のようで、私はくすりと笑ってしまう。
「え?あ・・・、えっと、な、なに言ってるんですか。・・・課長もお世辞とか言うんですね。」
言いながら、私もだいぶ酔ってるな、と思う。こんなふうに軽口を叩けるなんて。
「本当だよ。河本さんって、よーく見ると、すごく綺麗な顔してるよ。」
課長から、こんな風に言われたのは初めてで、というか、男の人からこんなふうに言われたのも初めてで、どう返していいのか困惑していると、隣の課の係長の今井係長が、私と山村課長の前にやってきた。
今井係長は、役職は課長よりも下だが、年齢は山村課長よりも五つほど上だ。おせじにも仕事が出来るとは言えないため、出世が遅れていることは、口には出さないが、誰もが知っている。
それに加えて、酒癖の悪さで有名だ。片手に焼酎のロックを持っている。
「俺、だいぶ酔っぱらったなあ、家まで帰れるかなあ。」
すでに呂律の回っていない口調で、私に向かって言う。
「係長、ちゃんと帰ってくれないと困りますよ。」
山村課長が、冗談交じりにたしなめる。
「いやあ、どうかなあ。河本さん、一緒に帰ろうか。河本さんのこと、どこかに連れて行って、襲っちゃうかもしれんけどなぁ。」
そう言いながら、係長がにやにや顔でこちらを見ている。
係長が、私のほうに体を寄せてこようとするのを、山村課長が制止した。
「それは駄目です。」
そう言って、課長が私を係長から遮るように手を伸ばす。
その瞬間、課長の腕が少しだけ、私の体に触れた。
電気が走ったように、どきりと心臓が大きく高鳴った。
私の体が、課長の体と触れてる。
・・・課長も気がついているのかな。
気がついていないのかもしれない。
気がつかないでほしい。
ずっとこのまま、ほんの一部でも、触れ合っていたい。
「山村ぁ、お前のほうが怪しいぞ。マジになっちゃって。」
「そりゃうちの大事な部下ですから。」
今井係長をさらりとあしらって、
「河本さん、大丈夫?」
と私を気遣ってくれた。
いつもよりずっと、近い距離に課長の顔がある。
「だ、大丈夫です・・。」
蚊の鳴くような声が出てしまう。
正直言って、酔っぱらった係長の目は、どろんとしていて、なんだか少し恐かった。
懸命に笑顔をつくるけど、少しひきつっていたかもしれない。
課長は、心の底から心配そうな顔で、私を見ていた。