でも、好きなんです。
コースの料理が半分ほど済んで、メインを食べている途中、美穂が、少し言いづらそうにして、切り出した。



「実はね・・・、私今、職場の先輩と、不倫してるんだ。」



 すっかり耳ダンボだった。実際に不倫している経験者の話は貴重だ。



「う、嘘!」

「いやあ、これがマジでさ・・・。」

「ちょ、超聞きたい!・・・私もそのう、実は、今気になっている人が、結婚してて・・・。」


私が興奮のあまりそう漏らすと、美穂はひどく驚いた表情を浮かべた。


「うっそ。愛美が既婚者に片想い?!」

「・・・だって、超かっこいいんだもん。その上、仕事も出来て、賢くて、優しいの。」

「ああ、そりゃ惚れるわ。」


美穂はフォークを持ったまま、深く頷いた。


「ねね、ど、どうして、不倫とかすることになったの?」

「どうして・・・って、結構色々話すうちに、なんか、いいかも、って思い始めて、で、なんとなく二人で飲みにいくことになって、その帰りに・・・、まあ、既成事実ができちゃったって感じかな。」


やはり、すべては二人で飲みに行くことから始まるのか・・・。

妙にひとり納得して、私は、うんうん、と頷く。


「てか、愛美はさあ、はじめからそんな難易度高い案件から入る必要なくない?

 既婚者なんて、時間の無駄だって。・・・って、実際不倫してる私が言うのもなんだけど。

 私は、あと数年したら、とっとと別れて、ほどほどの男と結婚しようと思ってるけど、愛美はそんな器用なこと出来るタイプじゃないっしょ。」


完全に侮られているのはよくわかったが、美穂は美穂なりに私の身を案じてくれているようだ。


「私たち女の二十代ってのはさー、マジで貴重なんだから、今更既婚者に片想いして数年を無駄にするとか、絶対やめなよー?」

「そうかもしれないけど・・・。」

美穂の言うことはよくわかるけど、気持ちって、そんなに簡単に止められるものじゃない。
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