でも、好きなんです。
「河本さん、なーに、ひとりでため息ついてんの?」

「きゃっ!」

突然声をかけられて、思わず声をあげてしまう。同期で同じ課の、広瀬君だった。

「なんだ、広瀬君。」

「そんなに驚かなくても・・・。」

広瀬君は呆れ顔だ。

「なんていうか、河本さんの反応ってさ、垢ぬけなさ過ぎて、逆に新鮮だよ。」

「・・・それって、間違いなく褒めてないよね?」

 広瀬君は、私と同じ営業一課の同期だ。

 私が、納期管理や在庫管理の事務処理を主に担当しているのに対して、広瀬君の仕事は、主に外回りだ。

 営業向けの採用だけあって、見た目は、爽やかな好青年だけど、その生活はなかなか荒んでいる。

 三度の飯よりギャンブルが好き。

 自分の資産の9割は株や為替だと、日ごろから豪語している。

 この人とは、平和な家庭は築けそうにないな。

 いや、築く予定もないけども。てか、そもそも向こうがね。うん、ごめんなさい、ブスが上から目線でした。

「若いのにさあ、昼間から、そんなため息ついてちゃ駄目でしょ。」

「あー、そうですかね、うん、そうかもしれないですね。」

「あー、そういう反応、よくないよ、男受け最悪だよ。」

「いいんです、よくしようとしても無理だってことは、二十数年生きてきてよくわかっていますから。もういいんです。」

「そういう投げやりがよくないんだよ。なんか、悩みでもあるの?俺、聞こうか。十分千円で。」

「いえ、いいです。お金貯めるしか身を守る術がないので、お金が大事なんです。あなたみたいな人に身ぐるみ剥がされたら、痛い子すぎます。」

「あー、ほら、それ駄目だよ、もっと上手く甘えないと。相談のってもらうとかいうことからさ、男と女は始まるわけだから。」

 そんなくだらないことを話していると、広瀬君が上司から呼ばれたので、私はそのまま席に戻った。

 自分の席に着くと、今度は、隣の席の美香さんが話しかけてきた。

 美香さんは、二つ上の先輩で、そんなに美人というわけでもないのだけれど(私が言うのもなんだが)、男の人からやたらとモテる。

「まなちゃんってさ、広瀬君と仲いいよねえ?」

 真剣に言っている意味がわからず、しばし沈黙する。

「・・・そうですか?いや、全くそんなことはないと思いますよ?」

「えー、仲いいよお。広瀬君、まなちゃんを見つけると、必ず話しかけてちょっかい出してるじゃん。」

「あの人は・・・誰に対してもあんな感じだと思いますけど・・・。」

「えー、そうかなあ、広瀬君、なーんか、つれないんだよね。飲み会とか誘っても、うまーく断っちゃうんだよ、やっぱり彼女かなあ。」

「あー、彼女はいないって言ってましたよ、たしか、一年半くらいいないとか。」

「そうなんだー?えへ、いいこと聞いちゃった。ありがと、まなちゃん。」

「ああ、いえ。」
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