でも、好きなんです。

またひと波乱

それからの一週間、今回の失敗を取り戻そうと、これまで以上に一生懸命仕事をした。

失敗を取り戻す・・・という気持ちは大きかったけれど、窪田さんとの色々や、報われない課長への気持ちについて考えたくない、という気持ちもあった。

窪田さんはああ言っていたけれど、私の気持ちはどうなんだろう。

窪田さんといると、自然に笑えて、なんだかほっとして、でもドキドキすることもあって、なんていうか、すごく楽しい。

課長のことは?

課長に対する憧れは相変わらず強くて、好きだと思うけど、課長には奥さんがいる。

これ以上、思い続けていても、不毛だと思う。

もやもやする気持ちを必死に頭の片隅に追いやって、必死に仕事に集中する。



エクセルで、受注数の推移をグラフにする作業をしていると、突然、カーソルが動かなくなってしまった。


「あれ?あれ?」


しばらくパソコンと格闘したが、まるで動く様子がない。

困っていると、そばを通りかかった山村課長が、見てくれた。


「えー、どれどれ?」


そう言って、私のすぐ隣に来て、パソコンのディスプレイを覗きこむ。

(か、顔近い・・・。)

真剣にディスプレイを見つめる無防備な横顔に、ドキドキしすぎで、説明されている内容は、正直上の空だ。


「うん、これで、大丈夫だと思うよ。」

「あ、ありがとうございます。」


ちらちら横顔を見ているの、課長にバレているだろうか。気が気でない。

やっぱり、課長にドキドキする。すごく、好き。

課長が去って行ったのをちらりと見て、美香さんが耳打ちしてきた。


「山村課長って、ほんとかっこいいよね。」

「え?!

 あ・・・えっと、そうですね。」


突然話しかけられて、間の抜けた返事をしてしまう。


「しかもね~、噂で聞いたんだけど、課長の家、あまりうまくいってないらしいよ。」

「え?」

「なんかね~、奥さんと色々揉めてるんだって。」


はじめて聞く話だった。

奥さんと揉めてる・・・?

ついこの間まで、課長は、楽しそうに奥さんやお子さんの話を笑顔でしていたような気がするけれど・・・。


「あの課長だもんね~、もし離婚なんてなったら、女の子、殺到するんじゃない?

 すぐに新しい奥さん見つかりそうだよね~。

 私も立候補しようかな?」


返答に困って、曖昧な笑顔で返した。

課長が席に戻ってきたので、その話題はそこでおしまいになった。

近くの席の窪田さんにも聞こえていたのか、窪田さんがちらりと私のほうを見たような気がした。

課長が奥さんと揉めてる・・・?

本当なのかな・・・?

だけど、素直に喜べない・・・。

どうしてだろう?


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