でも、好きなんです。
昼休み、お昼を終えて席に戻ろうとしたところで、広瀬君にばったり会った。


「よう、最近どう?俺は週末の株でかなり買ったから超ご機嫌。」


広瀬君は、証券会社からの転職組で、資産運用とギャンブルが趣味。


「ふーん、良かったね。じゃあなにかおごってよ。」


男慣れしていない私でも、広瀬君相手には、多少の軽口を叩ける。なんていうか、楽。


「いや~、でもなあ、これを元手に今週は競馬にいかなきゃいけないからなあ、おごりたいのはやまやまなんだけど・・・。」

「嘘つけ。」


広瀬君がふざけて笑う。

うーん、こんなギャンブル好きの男は絶対夫にしたくない。


「それにしても、そっちの美香さんさ、なんか、恐いんだけど。」


急に声を潜めて、広瀬君が言う。


「恐い?美香さんは別に恐くないよ、優しいよ。」

「そういう意味じゃないよ、お前、わかんないやつだなあ。

 やたら誘われて恐いって言ってんの。」

「誘われる?!」

「馬鹿、声大きいよ。」


広瀬君に怒られた。


「合コンしよ~、とか飲み行こ~、とか面倒くさいだよな。

 いつもそれとなく断ってるんだけど。」

「えー、行ったらいいじゃん。美香さん綺麗だしモテるし。」


広瀬君は、ふうとため息をつく。


「美香さんがモテてるのは、テクニックだよ。

 腕触ったり、服つまんだり、じっと見てきたり、そういうのがすげー上手いの。

 ・・・でもなあ、そういう女ばっかり相手してると、徐々に疲れてくるんだよな、このくらいの歳になると。

 俺、前の職場もそういう女の人多くてさ。

 金融関係って、綺麗な人多いでしょ?」


あー、広瀬君のモテアピールか。やだやだ。


「ふうん。そういうもんですか。私にはよくわからないですけど・・・。」


適当に受け流す。

適当に受け流すことは、社会人にとって極めて重要なスキルだ。


「河本さんには、わかんないだろうなあ。

 まあでも、そのくらいのほうがいいよ。

 アンテナびんびん張ってる女って、疲れるし、なんか恐い。」


じゃあね、と言って広瀬君は行ってしまった。


テクニックね・・・。

私もそういうテクニックを身につければ、課長ともう少し近付けるのかな?
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