でも、好きなんです。
「ふう・・・。なんとか出来たね。」

「はい・・・。」

「・・・って、ごめん、遅くなっちゃったな。

送るよ。」


課長が時計を見て言った。


「え、大丈夫です!」

「大丈夫じゃないよ。」


そう言われて、課長に送ってもらうことになった。


「準備、なんとか無事終わって良かったな。

河本さんのおかげだね。

あとは、明日、寝坊しないようにしなきゃな・・・。

新幹線、七時だったね。」


今日はだいぶ肌寒い。

街路樹のある道を、二人で並んで歩く。


「ほんと、早起きしなきゃ・・・。」


課長といると、窪田さんといるときのように自然に話せない。


「窪田君、羨ましがってるんじゃないかな。

ひとりだけ留守番で、ふてくされてるかもね。」


「あはは、そうですね。

窪田さん、子どもだから。」


「窪田君と河本さん、最近、ほんと仲良いよな。」


「え?

やだ、課長ったら、また。

違いますよ、窪田さんは、誰に対してもああなんですよ。」


「ああ・・・。

そういえば、そうかもな。

窪田君は、いいな。」


「え?」


「誰とでもすぐ仲良くなる。

いいよな。」


「・・・課長だって、皆から好かれてます。」


いつもと少し違う課長の様子に、私は少し困惑しながら言った。


「ありがとう。

でもな、なんか、壁があるっていうのかな・・・。

僕は、かっこつけだから、うまく自分を出せなくて・・・。

・・・って、いい年しておかしなこと言ってるね。」


「そんなことありません。

課長はかっこつけなんじゃなくて・・・。実際かっこいいんですよ。」


「え?」


「あ、えっと、すみません、変なこと言いました・・・。」


「いや、ありがとう。」


 コンビニの前を通った時、課長が言った。


「お、肉まん。

そういや腹減ったな・・・。

肉まんでも食べながら行こう?

おごるよ?」


「あ、ありがとうございます。」


 課長が肉まんを買ってくれた。

 温かくて美味しい。


「ご家族、待ってるんじゃないですか。

課長がこんなに遅くなること、珍しいから。」

何を話したらいいのかわからなくて、そんなことを聞いてしまう。


「ああ、どうかな・・・。」


 課長が、どう答えたらいいかわからないという顔で言葉を濁した。

 美香さんから聞いた話、本当なのかな。

 美香さんから、課長の家が揉めていると聞いた時、まさか、と思ったけど、今の課長の表情を見て、本当なのかも、と思ってしまった。


「そうに決まってますよ、課長のおうち、仲良さそうですもん。」


自分の中に、こんな意地の悪い自分がいるとは思ってもみなかった。

聞きたい。

本当のことを、聞きたい。

課長が、話したくなさそうにしたのがわかったはずなのに、追いうちをかけるようにプレッシャーをかけてしまった。

< 49 / 70 >

この作品をシェア

pagetop