でも、好きなんです。
(泊まるって言ったって、同じ部屋に泊まるわけじゃないし・・・。)

 ビジネスホテルで一泊して帰るだけだ。

 あ、一泊ってことは、化粧品や下着も必要だな・・・。

 近くで買わないと・・・。

 一泊って、ことは、この後、課長とご飯を食べて・・・?

 課長と二人で食事なんて、初めてだ。

 あー、今日は緊張の連続だな、ほんとに。

 あれこれ考えているうちに、課長が店内に入ってきた。

 きょろきょろと店内を見渡している。

 あれは、私を探しているんだ。

 たかがそれだけのことに、ちょっとした感動すら覚えていた。

 遠目に見る課長は、店内にたくさんいるどのサラリーマンよりも格好良かった。

 隣の席の女性二人組も、ちらりと課長に視線を送っていた。

 その課長が、私に向かって笑顔で近づいてくる。

 まるで、デートの待ち合わせみたいで、ドキドキしてしまう。

(私ったら、ほんと、妄想しすぎだな・・・。

 あつかましすぎて、ごめんなさい、山村課長。)

 密かに心の中で懺悔した。


「ごめん、待たせたね。

 ホテル、なんとかとれたよ。

 これで、なんとか夜は明かせそうだ。

 あー、良かった。

 三軒目でようやくだよ。

 さすがに焦ったな。」


 課長はそう言って、ふうと息をついた。

 課長の前にホットコーヒーが運ばれてきた。


「ありがとうございます・・・。

 すみません。」


「いやいや、こちらこそ、なんだか、今日はついてない日でごめんね。」


 山村課長が、『ついてない日』と表現したことに、ちくりと胸が痛んだ。

 ・・・そうだよ、何をひとりで盛り上がっているんだろう。

 課長にとっては、今日は『ついてない日』なんだ・・・。

 私にとっては、(確かに予想外過ぎて色々びっくりしたけど)神様に感謝したいくらい、貴重な一日なのに。


「・・・いや、でも、ついてないのは河本さんだけかな。

 僕にとっては、ちょっとした旅行みたいで結構楽しい一日だから。

 ・・・なんて言ったら不謹慎かな?」


 課長がそう言ったので、まるで、心の中を読まれたのかと思って焦った。

 私は慌てて首を振った。


「私も、そう思ってました。

 初めて仙台にも来れたし。」

「本当?

 なら、良かった。

 これはさ、神様がくれたご褒美だと思って、美味しいものでも食べようか。

 うまい店、知ってるんだ。

 前に出張で来たときに行った店でね・・・。」


 課長が、楽しそうに店の話をしているが、半分上の空で聞いてしまう。

 ・・・『神様がくれたご褒美』なんて、それは私にとっての今日だ。

 課長とこんなふうに二人でコーヒーを飲んで、この後も一緒にご飯を食べられる・・・そんな一日をもらえるだけで十分だった。



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