でも、好きなんです。
「河本さん、最近、元気ない?」

提示後、ふと目があった窪田さんから、そう声をかけられて、どきりとした。

「え?・・・そんなこと、ないですよ?」

「なんだか、いつも寂しそうな顔してる。」

窪田さんが、まっすぐに私を見つめている。

気がつけば、オフィスには、私と窪田さんの二人きりになっていた。

(窪田さんと二人きりにならないように気を付けていたのに・・・。

私の馬鹿・・・。)

仕事に集中していて気がつかなかった。

今、窪田さんと二人きりになって、問い詰められたら、隠し通せる自信がなかった。

窪田さんは、おっとりしているように見えて、館が鋭い。

モテる男の人って、そうなんだろうか。

他の人が気がつかないようなことまで、しっかり見てる。

「課長と・・・なにかあった?」

「なにかってなんですか?」

私は、曖昧な笑顔で訪ね返した。

「・・・河本さんが、そんな顔ばかりするようになるようなこと。」

「え?」

「・・・完全に、好きな人となにかあった顔だよ。隠しても、僕にはわかるよ。」

窪田さんは笑わなかった。

「やだ、窪田さん、なに言ってるんですか。なにもないですよ、あるわけないでしょう。」

「どうして?」

「どうして・・・って、私の課長への気持ちはただの憧れだし、課長には奥さんがいるし、課長だ

って、私のこと、そんな風に思うわけないじゃないですか。」

「河本さんの気持ちへの言い訳にしか聞こえないよ、それ。」

「大体、課長がそんな割りにあわないこと、すると思います?あの賢い課長が、単なる女子社員に

手を出して、もしバレたら、一生社内で噂の的ですよ?」

窪田さんは小さなため息をついた。

「することだってあるよ。

同じ男だから、僕にはわかる。

あの課長だって、そうなることはあるよ。

僕だって、同じ職場だけはやめておこうって、これまで思ってたんだ。

だけど、どうしようもできないときって、あるよ。」
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