でも、好きなんです。
「ちょ・・・男の人って、結構浅はかなんですね。」

私は、おどけて言った。

「そうかもしれないね。」

窪田さんはそういったきり、何も言わなかった。

しばらくの沈黙の後、念を押すように、私は言った。

「とにかく、私と課長の間には、本当に何もなかったですからね?」

窪田さんは、考え込むかのように、視線を落としたまま答えた。

「うん、わかってる。

今話を聞いて、大体わかったから、もういいんだ。」

なんと答えたらよいのかわからず、私は黙っていた。

「僕は、別に河本さんに自白してもらいたいわけじゃない。

僕にとってのyes、noはわかったから、その話はもういいんだ。」

窪田さんが言っている意味がわからず黙っていると、窪田さんはそのまま話を続けた。

「・・・返事をしづらかったら、黙っていてくれていいよ。

それよりも、僕が気になってるのは、河本さんが、どうしてそんなに悲しそうなのかなってことだ

けなんだ。」

私は、窪田さんを静かに見つめたまま、話を聞いていた。

「前にも話したけど、僕は、河本さんのことが、好きだと思う。

気になって仕方がないんだ。

河本さんが、課長とそんなことになるなんて、絶対に嫌だと思ってる。

だけど、河本さんが、本当に幸せになれるのなら、課長を選んでもいいって思ってる。」

「でも、今の河本さんは、全然幸せそうじゃない。

河本さんは、それで本当に満足なの?」

窪田さんは、少し悲しそうに、私から目を反らしたまま、そう私になげかけた。

やっぱり、窪田さんにはバレてしまっている。

数分の間があった。

「・・・答えられません。」

「・・・そうだよね。」

窪田さんが、諦めたように笑った。

窪田さんは、席を立つと帰り支度を始めた。

「ごめんね、なんか・・・ひとりで突っ走っちゃった。

あー、俺、まじかっこわるい。」

いつもの窪田さんの口調だった。

「・・・河本さんが終わるまで待ってようかななんて思ってたんだけど、やっぱり帰るね。

ごめん、やっぱり、ちょっとつらい。」

そう言って、窪田さんはてきぱきと荷物をまとめた。

「心配、しないでね?

僕、秘密は守るし、そもそも、何も聞いていないからね。

今日の話は、すべて僕の妄想。

・・・もし、悩んでいたら、なんでも相談して。

まだ、諦めたわけじゃないから。」

そう言って、窪田さんはにこりと笑うとオフィスを後にした。
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