でも、好きなんです。

「上司と言う立場で、こんな風に連絡していいのか悩んだけれど、

結局こうして連絡してしまっています。

少しだけ、時間をもらえないかな?

夜、空いている日はないかな?」


課長からのメッセージに書いてあったのはこれだけだった。

核心に触れるようなことは何も書かれていなかった。

当然かもしれない。

課長は既婚者で、こういう形でメッセージを残すことは、足元をすくわれることになるのかもしれないのだから。

・・・それとも、そんなことは私の考えすぎだろうか。

私のイメージの中の課長は、かっこよくて、完璧で、卑怯なことはしない人なのに、既婚者の汚さのようなものを見てしまうと、

恋の幸福感がすっと覚めてしまうような気がしてしまう。

そんなふうに感じる私はやっぱり不倫なんてものに向いていないのかもしれない。の

もし、課長に二人で会って、

もし、付き合うなんてことになったら、

こんなふうに、課長に対して、卑怯だと思ったり、がっかりしたり、そういうことが増えていくんだろうか。

ネガティブな考えばかりが頭に浮かぶ。

私は必死に打ち消した。

そんなこと・・・すべて私の勝手な勘繰りだ。被害妄想だ。

会って話したい、課長がそう思ってくれるだけで、とても嬉しいのに。

課長からのメッセージが届くだけで、とてつもなく幸せな気持ちなのに。

(・・・思うつぼなのかな。)

相手が既婚者というだけで、考えが被害者的な発想になってしまう気がして、自己嫌悪になってしまいそうだった。

「大丈夫です。

金曜の夜は空いていますけど、

ご都合はどうですか?」


事務的な返事になってしまった。

課長のメッセージに合わせて、予定調整だけの内容になる。

会って話されることが、私にとって喜ぶべき内容だとは限らない。

この間のことを、謝罪されるだけなのかもしれない。

それでも、いい。

課長がどんな行動をとるかと私の気持ちには、なんの関連性もない。

そう思えるくらい、課長への気持ちは揺るぎないものになっていた。
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