でも、好きなんです。
課長とは、金曜の夜に会うことになった。

待ち合わせ場所は、私の家の近くの居酒屋だった。

約束の日までの間、職場での私と課長との関係は、相変わらずただの上司と部下だった。

毎日、家に着くとほっとした。

課長のことで悩んでいる様子を見せないように頑張る必要がなかったからだ。

職場では、いつも気を張っていた。

へまをして、感情を表に出すようなことがあれば、課長に嫌われてしまうような気がした。

嫌われるもなにも、なんとも思われていないかもしれないのに。

課長の気持ちを確かめられたら、この苦しい毎日も、頑張っていけると思うのに。

そんな気持ちで、祈るように金曜日の夜を待った。


金曜の夜、指定された店で、課長の名前を告げると、個室に通された。

課長はまだ来ていなかった。

予約時間までにはまだ五分ほどある。

落ち着かない気持ちで、課長を待った。

今日の服装を決めるのに、散々悩んだ。

悩んだ末に、ローズピンクのブラウスを選んだ。

少しだけオフショルダー気味のデザインで、背中側のボタン装飾が気に入っている。

ボトムスは黒のスカートにした。

オフィスでぎりぎり許される丈の、短めミディアム。

できるだけ、かわいいと思われたい。

その気持ちだけだった。

ピンポーン、ご予約様、ご来店です。

店内にその知らせが響き渡る度に、緊張で体がこわばった。

何回目かのアナウンスで、課長が個室の扉を開けて入ってきた。

「ごめん、遅れた!」

そう言って、肩で息をしながら入ってきた課長は、つい数時間前にオフィスで見た課長そのままなのに、全く別の男性のように見えた。
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