でも、好きなんです。
 私と茉莉は、予約した美容室へと向かった。

・・・・・・・・・・・・

「いらっしゃいませー。」

 洗練された雰囲気の店内に、圧倒される。内装は、白と黒でシックにまとめられ、照明は間接照明がお洒落。エントランスには人工の滝が流れて、アロマの香りがする。

「こんにちはー。」

 茉莉が慣れた様子で受付のお姉さんに声をかけている。お姉さんは、満面の笑顔を浮かべる。

「あらぁ、お久しぶりですぅ。ご予約ですか?」

「今日は、友達をお願いしようと思って。」

 茉莉の言葉に、お姉さんが私のほうを見る。ぺこりと頭を下げる。

「茉莉さんのお友達ですかぁ、いいですねえ。」

 なにが「いい」のかわからないが、店員さんというのは、時々こういう意味のわからない盛り上げ方をする。

「この子、今度デートなんで、可愛くしてあげてもらえますか?」

「えっ、デートなんですかぁ?やだー、超楽しい!まじテンションあがってきました!ばっちりデート上手くいくスタイルで行きますからね♪」

 髪をいじられる本人のいないところで、着々と話が進んでいく。

 だ、駄目だ・・・このノリにすでについていけない。茉莉の常連ぶった顔で、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった。

 だけど、茉莉には感謝しなければ。私ひとりでは、到底ここまでたどり着けなかっただろう。

 きっと、お姉さんとの会話の中でコミュ障をさらけ出すか、洗練された店のエントランスでまわれ右をしてしまうか、あるいは予約の電話で言葉を発することができず、変態電話のようにハアハア言いながら電話を切って終わっていただろう。

ああ、ここまで来れたら本望だ・・・。ある種の感動を胸に、案内された椅子に腰かける。

「んじゃ、私は買い物でもして時間潰してくるわ。終わる頃、また来るからね、ばっちり変身してきてよね?」

 そう言って、茉莉は店外へと消えていった。イマドキのお姉さんと二人、取り残されると、また緊張感が高まってきた。

「髪の毛、まっすぐで綺麗ですよねー。私、もともとが癖っ毛なので、こういう髪の人がほんとに羨ましいんですよ。

 お姉さんが、私の髪を触りながら、言う。
 
 こういう人は時々、いる。まるで恵まれない子に愛の手を差し伸べるかのように、褒める箇所の極めて少ない私の容貌の中から、なんとか褒めるところを見つけて、頑張って褒めてくれる。

 具体的に私が褒められることの多い箇所は、まっすぐな髪(単に何も手を加えていないだけ、まっすぐだが特段綺麗というわけではない)、長い睫毛(しかし目自体は決して大きくない)、足の長さ(足が長いわけではなく、身長が百六十五センチで少し大きいからそう見えるだけ)などのかなりピンポイントなどうでもよい箇所ばかりである。

皆が皆、大抵それらのうちのどれかしか言わないので、他には本当に褒めるところがあまりないのだな、と時々途方に暮れる。
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