S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~

五年後のわたし

最小限の照明だけが灯るオフィスで、私は一人きりでひたすらキーボードを叩いていた。

一心不乱に仕上げているのは、今日のミスを挽回するための新しいプレゼンの資料。
得意先の失いかけた信頼は一刻も早く修復しなくてはならない。

仕様の変更に気が付かないなんて、こんな凡ミス、何年振りだろうか。

自分に呆れながらも手は休めない。
製品の切り替えにより、新製品の仕様は得意先の要望に適うものではなかった。
慌てて在庫を確保しようと動いたが一歩間に合わず、とにかく相手先に事情を説明して頭を下げに行った。
散々嫌みを言われて、もう駄目だと思っていたところを、必死に頼み込んで、もう一度新しい提案をさせてもらえることになった。
まさに首の皮一枚で繋がった状態だ。

だから、私は手を休めることはできない。

たとえ、どんなにやるせない気分であったとしてもだ。
< 10 / 56 >

この作品をシェア

pagetop