Ｓ系課長のアメとムチ～恋はお叱りのあとで～
なかなか仕事を覚えない新人にイライラしながらも、かつての私がそうしてもらったように、根気よく付き合うようにしている。
でも、辞められたりしたら困るから、佐藤とは違い出来るだけ優しく伝えているつもりだ。

そんな中でも、今年の新人の一人、安井萌にはかなり手を焼いていた。
そもそもやる気がないのか、いくら注意をしても同じミスを繰り返す。
私も新人の頃はミスの繰り返しだったから人のことは言えないが、彼女の困ったところはそれだけではなかった。

私が注意をした後には、必ず周りの誰か泣きつくのだ。
あからさまにではなく、陰（と言っても給湯室とか廊下の隅とか誰かに声を掛けてもらえそうな場所）で、「松岡さんに注意されて…」と言いながら泣いているらしい。

泣くのはいい。ミスを繰り返すのも仕方ない。だけど、ちゃんと自分の手で仕事はしてほしい。

若くて可愛い新人の女の子が泣かされている事に同情して、男性社員の多くは代わりに仕事を片づけたり、時には私に「もっと優しくしてあげて」と忠告までしてくれたりする。

こちらとしては、厳しい口調で注意したことなど一度もない。

そんなことをしても彼女の為にならないと思うのだが、彼女曰く虐めているらしい立場の私が言っても、説得力が無いばかりか、ますます悪者になるだけだ。
結局は、見て見ぬ振りをしたり、「気をつけます」と謝ったりでやり過ごしていた。
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