S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
途端に涙がこみ上げてくる。
情けなくて、悔しくて、目からこぼれ落ちそうになるものを必死にこらえた。

「申し訳ありませんでした。頑張ります。」

最後に頭を下げてから、席に戻る。
安井萌の方はもう見られなかった。
隣の席の同僚から励ましの言葉を掛けられ、それに答えた後は黙々とパソコンに向き合った。

こんな時。
トイレや誰もいない会議室やロッカールームでさえ、私は泣けない。
まして、給湯室や廊下で涙を見せることなんて私には到底無理だ。

松岡いずみは、泣かない女なのだ。
かつて、彼が唯一褒めてくれたところで、私のこの五年間を支えてきたもの。
すでに、そんなものが女として生きていくのに、何の足しにもならないことに気が付いていても。

私は泣けないのだ。
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