S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~

溜まり始めた涙を押し止めて、PCをシャットダウンしようとしたところで、背後のドアがガチャリと開いた。

「おっ、やっぱりまだ居たな。」

同時に、私を数時間前に叱責したのと同じ声が聞こえる。
私はとっさに振り向かずに答えた。
涙は寸でのところで止まっているが、表情をすぐに切り替えられるほど器用ではない。

「お疲れさまです。今、終わったところです。」
「そうか、お疲れ。」
「佐藤さんは忘れ物ですか?」
「ん、まあ、そんなとこ。」

PCをシャットダウンしながら、平然を装って会話をしているうちに、表情を取り繕った。
とにかく、こんな精神状態で彼と話をしてはいけないことだけは分かる。
彼の顔を見て、涙を止めていられる自信はなかった。
逃げなくては、と思った私は、目の前のディスプレイが真っ黒になったと同時に鞄を掴み、勢いよく立ち上がって振り返る。

「終わったので帰ります。今日はすみませんでした。明日の朝資料の確認お願いします。」

佐藤に向けて一気に言葉を吐き出して、頭を下げる。
立ち尽くす彼の横を目も合わさずに勢いよく通り過ぎようとした。

「いやいや、待てって。」

私の即席の作戦は失敗に終わる。
彼が私の腕を掴み、呼び止めたのだ。

「電車の時間があるので。」

咄嗟に苦しい言い訳をしたが、そんなものが通用するわけがない。

「まだ10時だぞ。何で急いでんの?」
「見たいテレビが…」
「子どもかよ。」

あっという間にどうしても彼と向き合わねばならない状況になってしまった。

佐藤は昔からこういう男だ。
話がある時は、絶対に逃してくれない。
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