S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
「こんなこと、何年か前にもあったな。」
腕を掴まれて身動きできない私を、さらに追いつめるように、彼はもう一方の腕で私の逃げ道を塞いだ。
私は観念して、目の前の彼を見上げる。
あの夜。
私に延々とお説教を続けた時と同じ体勢。
ただ、あの日と違って、目の前の彼は厳しい表情ではなく、優しく微笑んでいた。
「凹んでるかなと思って来てみたら、やっぱりな。」
そう言って、彼は満足げに目を細めた。
いくら私でも、こんな短時間で顔色は取り繕えない。
「何かあったか?松岡にしては、あんなミス珍しいだろ。」
「珍しく無いですよ。新人の頃、佐藤さんに散々怒られたじゃないですか。」
「それは、昔の話だろ?何かあったんなら話せよ。話聞いてやるから。プライベートなことか?彼氏と喧嘩したとか?」
「彼氏なんてそもそも居ません。」
「やっぱり、そうか。だよな。」
「…なっ!どうせ、私は可愛げがありませんから。」
「そんなこと言ってない。この二週間、残業も休日出勤も頻繁にしてるから、そうかなと思ってただけだ。」
「だったら、何で聞くんですか!」
「…念のための確認だ。」
「意味が分かりません。」
ぐちゃぐちゃ言い合いをしながらも、私は彼から逃げようともがいたが、私は捕らえられたまま、視線を逸らすことさえままならない。
壁ドンの威力は、いろんな意味で凄まじい。
「とにかく、話聞いてやるから、行くぞ。ラーメン屋が閉まる。」
「だから、ラーメンは行きませんてば!」
「だったら、ここで話せよ。」
「だから、話すことなんてありません!」