S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
俺が一大決心をするに至ったのは、先週起きた二つの出来事による。
一つ目は。
昼休み、会社の休憩スペースからたまたま漏れ聞こえてきたのは、うちの課の若手有望株と言われている男の声で。
何やら、誰かを口説いているような甘い声に、引き返そうと思ったところ、次に俺の耳に入ってきたのは、すっかり聞き慣れた女の、戸惑ったような声だった。
「松岡さん、照れちゃって可愛いな。」
「もう、田村くん。からかわないで。」
「からかってないよ。俺は、結構本気なんだけど?」
そのやり取りは俺を苛つかせるには十分で、ここが会社だということも忘れ、休憩スペースに踏み込もうとしたところで、再び彼女の声が聞こえてきた。
「私、付き合ってる人がいるから、冗談でもそういうの困るわ。」
仕事の時と同様に、伝えたいことを簡潔にきっぱり言い切ったその一言に、一瞬で我に返った。
俺が出て行っても、はっきりと「俺の恋人に手を出すな」などと口走ることは出来ない。
周囲には付き合っていることは内緒にすると、彼女と約束している。
俺は、廊下の隅、休憩スペースから死角になる場所で、静かにため息を一つ漏らした。
できるだけ、冷静になることが大切だ。
「んー、でも結婚の約束してるとかじゃないんでしょ?」
「え?まあ、それは…」
「じゃあ、俺のことも検討してみてよ。わりと、本気だから。」
「いや、困るんだけど…」
いずみのはっきりとした返答にも怖じ気付くことなく、やり手の田村は強引に交渉の糸口を掴もうとしてくる。
俺の我慢の限界を超えて、一歩踏み出そうとした時、田村の携帯のアラームが鳴った。
昼休み終了の時刻を知らせているのだろう。
「おっ、もう昼休み終わりかよ。じゃ、松岡さん、今度ご飯でも行こうね。」
「ちょっと、待って…」
一つ目は。
昼休み、会社の休憩スペースからたまたま漏れ聞こえてきたのは、うちの課の若手有望株と言われている男の声で。
何やら、誰かを口説いているような甘い声に、引き返そうと思ったところ、次に俺の耳に入ってきたのは、すっかり聞き慣れた女の、戸惑ったような声だった。
「松岡さん、照れちゃって可愛いな。」
「もう、田村くん。からかわないで。」
「からかってないよ。俺は、結構本気なんだけど?」
そのやり取りは俺を苛つかせるには十分で、ここが会社だということも忘れ、休憩スペースに踏み込もうとしたところで、再び彼女の声が聞こえてきた。
「私、付き合ってる人がいるから、冗談でもそういうの困るわ。」
仕事の時と同様に、伝えたいことを簡潔にきっぱり言い切ったその一言に、一瞬で我に返った。
俺が出て行っても、はっきりと「俺の恋人に手を出すな」などと口走ることは出来ない。
周囲には付き合っていることは内緒にすると、彼女と約束している。
俺は、廊下の隅、休憩スペースから死角になる場所で、静かにため息を一つ漏らした。
できるだけ、冷静になることが大切だ。
「んー、でも結婚の約束してるとかじゃないんでしょ?」
「え?まあ、それは…」
「じゃあ、俺のことも検討してみてよ。わりと、本気だから。」
「いや、困るんだけど…」
いずみのはっきりとした返答にも怖じ気付くことなく、やり手の田村は強引に交渉の糸口を掴もうとしてくる。
俺の我慢の限界を超えて、一歩踏み出そうとした時、田村の携帯のアラームが鳴った。
昼休み終了の時刻を知らせているのだろう。
「おっ、もう昼休み終わりかよ。じゃ、松岡さん、今度ご飯でも行こうね。」
「ちょっと、待って…」